ラベル 21 スピードでパワーファイターに勝つ 第一章 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
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2018年12月7日金曜日

逆転可能性にかける(3)

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 一瞬、体の力が抜けたのをカツオは感じた。
 でも、倒れてはいなかった。
 カツオの体は、なんとかもちこたえていた。

 次の瞬間、相手コーナーから、
「烈、ファイトタイプZだ!」
 という声があがったのを、カツオは聞いた。

2018年12月4日火曜日

逆転の可能性にかける(2)

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 大きな歓声があがった。
 ジムが本物の試合会場のように盛りあがっている。
 練習生はみな、この闘いの観戦者となっていた。いまやジム内で練習をつづけているのは、プロボクサーの霧山一拳(きりやま いっけん)だけだった。

2018年12月1日土曜日

逆転の可能性にかける(1)

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逆転の可能性にかける



 対角線上のコーナーから、大賀烈がゆっくりと進みでてきた。
 クロス・アームブロックの構え――このラウンドも、じわりじわり追い詰めてから、重いショートパンチを連打する作戦のようだ。

 カツオは、コーナーに立ちどまった状態で、考えた。
 どうする?
 ロープ・ア・ドープをつづけるべきか?
 いや、星乃塚さんの言ったことが正しかった場合、それだと先に倒れるのはオレのほうだ。勝てる見込みはない。
 それよりは、まだ――

 カツオは、決断した。
 そして、コーナーを駆けだした。

2018年11月30日金曜日

このままだと逆転の見込みはない(2)

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 星乃塚は、青コーナーの様子を注意ぶかく見ていた。

 滝本さん、とりあえず深呼吸はさせたみたいだな。
 しかし、それだけだ。セコンドとして最低限のことをしただけで、アドバイスをしている様子はねぇ。
 いくらアレとはいえ、そいつはひどすぎるぜ。カツオはあきらめずに逆転を信じてるんだ。まわりが助けてやらなくてどうする!

 星乃塚はいても立ってもいられず、青コーナーに駆け寄った。

2018年11月26日月曜日

このままだと逆転の見込みはない(1)

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このままだと逆転の見込みはない



 あぶなげな足取りで、カツオは青コーナーにもどってきた。
 息が荒い。あえぐように呼吸している。見るからに疲労困憊(ひろう・こんぱい)だった。

2018年11月24日土曜日

逆転勝利のメソッド(2)

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 烈は、強烈なフックの連打から、いきなり左アッパーを放った。
 カツオは、ロープにおもいっきり背をあずけるようにしてスウェイ(のけぞる防御)をし、烈のアッパーを空振りさせた。

「カツオさん、ナイスディフェンス!」

「カツオ、そのパターンに気をつけろ! 外側の連打から、いきなりアッパーをいれてくるぞ!」

2018年11月23日金曜日

逆転勝利のメソッド(1)

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逆転勝利のメソッド



 カツオはロープを背負ってガードを固め、烈の攻撃を防いでいる。

 烈は、ガードの上からでもかまうことなく左右のフックを叩き込んでいく。
 ドスッ、ドスッと重々しい音が響き渡る。
 ブロックしているにもかかわらず、カツオの体が左右に揺れ動くほどだ。


 俊矢の表情が、ぱっと明るくなった。
「あれはもしかして、ロープ・ア・ドープ作戦じゃないですか!?」

「そうだ」
 星乃塚は答えた。
「モハメド・アリがあみだした逆転勝利のメソッドだ!」

2018年11月21日水曜日

目は輝きをうしなっていない

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目は輝きをうしなっていない



「た、立ったぁ! カツオさん、立ちましたよぉ!」
 俊矢はビデオを撮影していることを忘れ、小躍(こおど)りして歓喜した。

 星乃塚は、驚嘆するばかりだった。
「カツオ……すごいぞ、おまえ! すごいファイティング・スピリットだ!」

2018年11月20日火曜日

2018年11月17日土曜日

実戦性の高いコンビネーション(2)

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「カツオさん、クリンチ! 前へでてクリンチです!」
 俊矢が声をはりあげた。

 背後はコーナーポスト、左右はロープ――烈の猛攻からのがれるには、もはや前進するしかない。
 クリンチ(組みつき)に成功すれば、レフェリーにブレイクをかけてもらえる。
 ブレイクがかかれば両者は引きはなされ、ふたたび距離がひらき、またカツオの間合いからはじめることができるのだ。

2018年11月16日金曜日

実戦性の高いコンビネーション(1)

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実戦性の高いコンビネーション



 第2ラウンド、開始のブザーが鳴った。

 大賀烈は、クロス・アームブロックの構えで、じわりじわり前へでてくる。

 カツオは左まわりのフットワークを使い、烈を中心にしてリングに円を描いていく。
 前のラウンドとおなじようにサークリング・テクニックでいくつもりだ。

2018年11月13日火曜日

オレのほうが速く移動しているはずなのに……(2)

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「だいじょうぶか、カツオ」
 滝本トレーナーは、カツオに声をかけた。

 カツオは、青コーナーの前で呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしている。

「どうしてだ……オレのフットワークでまわり込めない。オレのほうが速く移動しているはずなのに……」

 カツオはつぶやきをもらした。
 絶対的な自信をもっていたフットワークが通用せず、ショックを受けているようだ。

 やはり、相手のステップワークの秘密に気づいていないようだな……。
 滝本トレーナーは思った。
 だが、それを教えてやるわけにはいかねぇ……それは、できねぇんだ!

 滝本トレーナーは唇を強くかみしめ、黙(もく)して語らずの意志をかためた。
 次のラウンドが、カツオにとって苦しいものになると知りながら……。

2018年11月9日金曜日

オレのほうが速く移動しているはずなのに……(1)

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オレのほうが速く移動しているはずなのに……



「いいぞ、烈。その調子だ」
 片倉会長は、赤コーナーにもどってきた烈に声をかけた。

 試合であれば、インターバルのあいだ選手はセコンドが用意した椅子(いす)に腰をおろすのだが、烈はコーナーの前で立っている。
 試合形式とはいえ、これはスパーリングだ。スパーリングは練習であり、インターバルの時間はずっと立っているのが通常のことなのだ。

2018年11月7日水曜日

サークリングが通用しない(2)

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 烈が前進して、間合いを詰めた。
 クロス・アームブロックの構えを解き、攻撃に転じる。

2018年11月6日火曜日

サークリングが通用しない(1)

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サークリングが通用しない



「向こうのセコンドから、また指示がでましたよ」
 俊矢が戦々恐々(せんせん・きょうきょう)とした声で言った。

「ああ……何か仕掛けてくる気だ」
 星乃塚は応えた。

2018年11月2日金曜日

ボディブローはリーチが活かせない(2)

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 烈はクロス・アームブロックの構えのまま、じわりじわり前進する。
 カツオは迎え撃つようにして、烈のボディに左右の連打を浴びせた。

 烈がクロス・アームブロックの構えを解(と)き、パンチを打つ態勢にはいる。

「あぶない、くる!」

 星乃塚の叫びと同時に、カツオは危険を察知して、バックステップで距離をとり直した。

 間合いをはずされた烈は、攻撃をあきらめ、ふたたび腕をX字型に構え直す。

「カツオ、ボディ狙いは危険だ! 接近されるぞ!」
 星乃塚は、リングの外からカツオに忠告を与えた。

 となりでビデオ係をやっている俊矢が、驚いて星乃塚を見る。
「どういうことですか!? どうしてボディ狙いが危険なんですか!?」

2018年10月31日水曜日

ボディブローはリーチが活かせない(1)

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ボディブローはリーチが活かせない



 大賀烈の構え方が変化した。
 右の拳(こぶし)を顔の左側に、左の拳を顔の右側にもってくるようにして構えている。
 両腕が顎(あご)の前でXのかたちに交差する格好だ。


 あのガードは……クロス・アームブロック!?
 カツオは烈の構えの変化にとまどい、目をみはった。
 だがそれも束の間(つかのま)のことで、すぐに気を取り直し、自分のやるべきことに集中する。
 構え方が変わろうと、おなじことだ! オレは、オレのボクシングをやる――それだけだ!

2018年10月26日金曜日

サークリング・テクニックの利点(3)

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 リングでは、カツオが速いフットワークでサークリングし、烈が頭をふりながら前進して追いかける、という展開がつづいている。

 カツオがジャブを放った。
 パーン、という高い音をたてて、烈の顔面をきれいにとらえた。

2018年10月24日水曜日

サークリング・テクニックの利点(2)

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 カツオが速いフットワークで移動しながら、左ジャブを放つ。
 烈のガードの隙間(すきま)を針の穴に糸をとおすかのような正確さで拳が通過し、顔面にヒットした。


「ナイスジャブ!」
 俊矢が声をあげた。

 カツオが、サークリングをしながら2発、3発とジャブを重ねていく。
 パン、パン、と小気味(こきみ)よい音をたてて、つづけざまにヒットした。

2018年10月23日火曜日

サークリング・テクニックの利点(1)

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サークリング・テクニックの利点



 スパーリングがはじまった。
 両者がリングの中央に進みでる。

 進みでながら、カツオが左の拳(こぶし)を前にだした。
 ボクシングでは『正々堂々と闘おう』という意思表示として、相手とグローブを合わせる慣習がある。

 烈は、カツオの呼びかけに応じた。
 左腕を前にのばし、拳と拳をふれ合わせる。

 両者が左腕をひきもどして構えをとり、闘いがスタートした。
 両者ともに左足を前にして構えるオーソドックス・スタイル(右利きの構え)だ。