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「だいじょうぶか、カツオ」
滝本トレーナーは、カツオに声をかけた。
カツオは、青コーナーの前で呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしている。
「どうしてだ……オレのフットワークでまわり込めない。オレのほうが速く移動しているはずなのに……」
カツオはつぶやきをもらした。
絶対的な自信をもっていたフットワークが通用せず、ショックを受けているようだ。
やはり、相手のステップワークの秘密に気づいていないようだな……。
滝本トレーナーは思った。
だが、それを教えてやるわけにはいかねぇ……それは、できねぇんだ!
滝本トレーナーは唇を強くかみしめ、黙(もく)して語らずの意志をかためた。
次のラウンドが、カツオにとって苦しいものになると知りながら……。