2018年11月9日金曜日

オレのほうが速く移動しているはずなのに……(1)

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オレのほうが速く移動しているはずなのに……



「いいぞ、烈。その調子だ」
 片倉会長は、赤コーナーにもどってきた烈に声をかけた。

 試合であれば、インターバルのあいだ選手はセコンドが用意した椅子(いす)に腰をおろすのだが、烈はコーナーの前で立っている。
 試合形式とはいえ、これはスパーリングだ。スパーリングは練習であり、インターバルの時間はずっと立っているのが通常のことなのだ。

 烈は、片倉会長に向かって言った。
「速い……速いぜ、あいつ! 練習生であんな速いやつがいるなんて、正直、面食らったぜ」

 ボクサーは、セコンドの前では本音(ほんね)がもれるものだ。
 烈はいま、相手に対する率直な驚きを吐露(とろ)している。

 片倉会長も、烈とおなじ思いだった。
「ああ、たしかに速いな。いますぐA級で通用するスピードだ。まさかガード3や、ステップ7まで使うことになるとはな」

 もっともそれは、片倉会長にしてみれば嬉しい誤算というやつだった。
 そう、片倉会長は、まさにこういう相手をさがしていたのだ。

「やつは速い。だが――」
 烈は強気な口調で言う。
「おれには通用しない! すでに攻略した!」

「そう、そのとおりだ。
 烈、次のラウンドもおなじ戦術でいけ。
 ガード3で徹底的に顎(あご)を守れ。そしてステップ7を使ってロープやコーナーに追いつめろ。
 けっして攻め急ぐなよ。攻撃するのは距離が詰まってから――おまえの得意な接近戦になってからだ」

「ああ、わかってるさ」

 そう答えた烈に気負(きお)いは感じられない。冷静に状況を判断できている。

 勝った!
 片倉会長は確信した。

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