2018年12月4日火曜日

逆転の可能性にかける(2)

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 大きな歓声があがった。
 ジムが本物の試合会場のように盛りあがっている。
 練習生はみな、この闘いの観戦者となっていた。いまやジム内で練習をつづけているのは、プロボクサーの霧山一拳(きりやま いっけん)だけだった。

「当たった! また当たった!」
 俊矢が興奮した声をあげる。
「カツオさんのパンチのほうがたくさん当たってます! スピードの差で、カツオさんのほうが打ち勝ってますよ!」

「いや……まずいぜ」

 星乃塚は、見た目とは優劣が逆だと感じていた。
 たしかにスピードでまさるカツオが、先手をとるようにしてパンチをヒットさせている。
 だが、いずれのパンチも効いている様子がない。むしろ烈の体に当たってパンチがはじき返されている感じだ。

 そして、打ち合いながら、じわりじわり前進しているのは烈のほうだった。
 くりだすパンチはほとんどヒットしていないにもかかわらず、驚異的な圧力でカツオを後退させている。

 俊矢も、そのことに気づいたようだ。
「な、なんてフィジカルの強さだ……打たれているのは向こうなのに、カツオさんを圧力で押している」

 後退しながらも、カツオは速くてキレのいいパンチを、烈の顔面に、ボディに、次々と叩き込んでいく。

 だが――

「効いてないのか!?」
 俊矢は愕然(がくぜん)と言葉をもらした。
 カツオのパンチが当たっても、まったくひるむ様子がないのだ。

 烈は、打たれながらも前進をつづけ、左右のフックをくりだしていく。
 そのうちの1発――左フックが、カツオの顎(あご)にクリーンヒットした。

 カツオの膝(ひざ)が、がくっと折れかかったが、かろうじてもちこたえた。

「あぶない! なんとかこらえた!」
 俊矢が声をあげて安堵(あんど)する。

 しかし、効いてる!

 片倉会長が、この機をのがさず声をはりあげた。
「よし、効いた! 烈、ファイトタイプZだ!」

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