2018年12月1日土曜日

逆転の可能性にかける(1)

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逆転の可能性にかける



 対角線上のコーナーから、大賀烈がゆっくりと進みでてきた。
 クロス・アームブロックの構え――このラウンドも、じわりじわり追い詰めてから、重いショートパンチを連打する作戦のようだ。

 カツオは、コーナーに立ちどまった状態で、考えた。
 どうする?
 ロープ・ア・ドープをつづけるべきか?
 いや、星乃塚さんの言ったことが正しかった場合、それだと先に倒れるのはオレのほうだ。勝てる見込みはない。
 それよりは、まだ――

 カツオは、決断した。
 そして、コーナーを駆けだした。


「何っ! でてきただと!?」
 片倉会長は目をみはった。
「烈を相手に、打ち合うつもりなのか!?」


「うおおおおぉぉぉぉぉ!」
 雄叫(おたけ)びをあげ、カツオは烈に突進していく。

 ボディフックの連打――カツオの左右の連打が、クロス・アームブロックでカバーできない烈のボディに襲いかかる。

「そうだ、カツオ!」
 星乃塚は声をあげた。
「ロープ・ア・ドープよりは、まだそっちのほうがいい!」

 俊矢が、星乃塚の言葉に同意して言う。
「打ち合いになるのを覚悟で、打って打って打ちまくる。たくさん打てばそのどれかがクリーンヒットして、相手をノックダウンする可能性だって生まれる――
 確率はけっしてよくないけど、このほうがまだ逆転の可能性があります。さすがカツオさん、それに気づいて実行にうつしましたよ!

 キレのいい左右のボディブローが、次から次へと烈の腹に叩き込まれていく。

 練習生たちが、わあっと歓声をあげた。

「す、すごいボディ連打だ!」
「1発1発のキレが半端(はんぱ)ないぞ!」

 カツオの猛攻に、観戦者たちの興奮が高まる。

 しかし、星乃塚はあせりをおぼえていた。
「くそっ、なんて頑丈(がんじょう)なボディだ! 平然と受けとめてやがる!」

 カツオのボディブローの連打を受けても、烈はガードをさげようとはしない。むしろ、「打ちたければ、いくらでも打て」と言わんばかりだ。

 赤コーナー側から、新たな指示がでた。
「烈! おまえの得意な接近戦だ、迎え撃て! だが、あくまでもファイトタイプGだ!」

 烈がクロス・アームブロックの構えを解き、攻撃を開始した。
 左右のショートフックを上下に打ちわけながら放っていく。

 カツオも連打の手をとめない。
 1発1発に「はっ!」という気合いのような声を発しながら、ボディだけでなく、ブロックの解けた顔面にもパンチを放っていく。

 激しくパンチが交錯(こうさく)する打ち合いになった。

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