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ボディブローはリーチが活かせない
大賀烈の構え方が変化した。
右の拳(こぶし)を顔の左側に、左の拳を顔の右側にもってくるようにして構えている。
両腕が顎(あご)の前でXのかたちに交差する格好だ。
あのガードは……クロス・アームブロック!?
カツオは烈の構えの変化にとまどい、目をみはった。
だがそれも束の間(つかのま)のことで、すぐに気を取り直し、自分のやるべきことに集中する。
構え方が変わろうと、おなじことだ! オレは、オレのボクシングをやる――それだけだ!
カツオは烈の構えの変化にとまどい、目をみはった。
だがそれも束の間(つかのま)のことで、すぐに気を取り直し、自分のやるべきことに集中する。
構え方が変わろうと、おなじことだ! オレは、オレのボクシングをやる――それだけだ!
カツオは高速フットワークでサークリングをしながら、左ジャブを放っていく。
2発、3発――いずれも烈のX字型のガードにはばまれ、ヒットしなかった。
「カツオさんのパンチが当たらなくなった!?」
俊矢が動揺した声をあげた。
星乃塚は説明する。
「相手の構えがクロス・アームブロックになったためだ」
「クロス・アームブロック?」
「拳を体の反対側にもっていくガードのしかただ。右拳を体の左側に、左拳を体の右側にもっていく。
あんなふうにX字型に腕を組むのは特殊だが、クロス・アームブロックで顔をおおうと、顎の正面、左右、下、そのすべてをガードするかたちになる」
「それって、ジャブ、ストレート、フック、アッパー、すべてのパンチを防げるってことじゃないですか」
「そうだ。相手陣営は、カツオのパンチは速すぎて反応できないと判断した。だから、構えの状態から顎を徹底的にカバーすることで、カツオのパンチを防ぐ戦法に切り替えたんだ」
X字型の構えで前進してくる烈。
カツオが、すばやいワンツーから左フックを返した。
さっきはクリーンヒットしたコンビネーションだが、今度は3発とも烈のX字型のガードにはばまれてしまった。
「カツオさんのパンチがまたブロックされた! まさか、こんな防御のしかたがあるなんて……」
「向こうのセコンドは片倉さんだ。これぐらいのことはやってくるさ」
カツオは攻撃の手をとめ、フットワークを使って烈の周囲を旋回する。
いまの状況を整理して、分析をしているようだ。
カツオのなかで次の戦術がかたまった。
パンチを打つそぶりのフェイントをしながら、次の攻撃のタイミングをはかる。
そして、踏み込んだ。
ジャブで顔面を軽く牽制(けんせい)し、ボディに右ストレート、体のひねりもどしを使った左フックをボディに叩き込んでいく。
ボディブローのコンビネーションが2発ともクリーンヒットした。バシッ、バシッというするどい音が響き渡る。
「カツオさん、ナイスボディ!」
俊矢が歓喜の声をあげた。
「がら空きのボディを狙い撃ちですよ! さすがカツオさんです!」
クロス・アームブロックは顎を完璧にカバーするが、その代わりにボディが無防備になる。その欠点をカツオはついたのだ。
だが――
「いや、ダメだ……まずいぜ」
星乃塚は、カツオの戦法に危険を感じていた。
烈は、カツオのボディブローを動じることなく受けとめている。効いている様子はない。むしろ余裕をもって打たせている感じだ。ボディの打たれ強さに絶対的な自信をもっているのが見てとれる。
きれいに当ててはいても、ダメージを与えられていないのなら、ボディ狙いはまずい。
ボディを打つことはアウトボクサーにとってリスクがあるからだ。
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