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実戦性の高いコンビネーション
第2ラウンド、開始のブザーが鳴った。
大賀烈は、クロス・アームブロックの構えで、じわりじわり前へでてくる。
カツオは左まわりのフットワークを使い、烈を中心にしてリングに円を描いていく。
前のラウンドとおなじようにサークリング・テクニックでいくつもりだ。
「速いっ!」
俊矢が興奮した声をあげた。
「カツオさんのフットワーク、さらにスピードアップしてますよ! あのスピードなら、もうつかまったりしませんよね?」
「…………」
星乃塚は答えなかった。
肯定することはできないからだ。
カツオのやつ、やっぱり気づいてないみたいだな……
ダメなんだよ、カツオ。いくらフットワークのスピードをあげてもダメなんだ。つかまっちまうんだよ、あのステップワークにかかったらな――
しかし、烈のステップワークの秘密をカツオに教えてやることはできない。
星乃塚は歯がゆい思いでいっぱいだった。
カツオが速いフットワークで移動しながら、ジャブ、ワンツーをくりだした。
烈はクロス・アームブロックでパンチを受けとめ、少しずつ前進する。
カツオのサークリングが、またしても通用しなくなってきた。
速いフットワークを駆使(くし)しているにもかかわらず、距離を詰められそうになる。
左まわりで移動しては追いつかれ、右へ方向転換しても、やはり追いつかれてしまう。
「まただ! またしてもまわり込めない! どういうことなんだ!?」
高速フットワークで移動しているカツオが、ゆっくりと歩くようなステップの烈に追い詰められていく。
烈の側面にまわり込めないカツオは、烈のプレッシャーに押され、まっすぐ後ろにさがりはじめた。
カツオの背中に、コーナーポストが当たった。
「まずい! またコーナーに追い込まれた!」
カツオは赤コーナーを背にしている。これ以上、後退できない。
烈は悠々(ゆうゆう)と間合いを詰め、接近をはたした。
烈の左右のフックが、カツオに叩き込まれていく。
カツオはガードをあげて、烈の連打を耐え忍ぼうとする。
しかし、烈のフックは一発一発が重い。ガードの上からでもカツオをよろめかせるパワーがある。
カツオは、コーナーという名の死地に追い込まれた。
後ろにも左右にも逃げ道はない。
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