2018年11月16日金曜日

実戦性の高いコンビネーション(1)

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実戦性の高いコンビネーション



 第2ラウンド、開始のブザーが鳴った。

 大賀烈は、クロス・アームブロックの構えで、じわりじわり前へでてくる。

 カツオは左まわりのフットワークを使い、烈を中心にしてリングに円を描いていく。
 前のラウンドとおなじようにサークリング・テクニックでいくつもりだ。

「速いっ!」
 俊矢が興奮した声をあげた。
「カツオさんのフットワーク、さらにスピードアップしてますよ! あのスピードなら、もうつかまったりしませんよね?」

「…………」

 星乃塚は答えなかった。
 肯定することはできないからだ。

 カツオのやつ、やっぱり気づいてないみたいだな……
 ダメなんだよ、カツオ。いくらフットワークのスピードをあげてもダメなんだ。つかまっちまうんだよ、あのステップワークにかかったらな――
 しかし、烈のステップワークの秘密をカツオに教えてやることはできない。
 星乃塚は歯がゆい思いでいっぱいだった。

 カツオが速いフットワークで移動しながら、ジャブ、ワンツーをくりだした。
 烈はクロス・アームブロックでパンチを受けとめ、少しずつ前進する。

 カツオのサークリングが、またしても通用しなくなってきた。
 速いフットワークを駆使(くし)しているにもかかわらず、距離を詰められそうになる。
 左まわりで移動しては追いつかれ、右へ方向転換しても、やはり追いつかれてしまう。

「まただ! またしてもまわり込めない! どういうことなんだ!?」

 高速フットワークで移動しているカツオが、ゆっくりと歩くようなステップの烈に追い詰められていく。
 烈の側面にまわり込めないカツオは、烈のプレッシャーに押され、まっすぐ後ろにさがりはじめた。

 カツオの背中に、コーナーポストが当たった。

「まずい! またコーナーに追い込まれた!」

 カツオは赤コーナーを背にしている。これ以上、後退できない。

 烈は悠々(ゆうゆう)と間合いを詰め、接近をはたした。
 烈の左右のフックが、カツオに叩き込まれていく。

 カツオはガードをあげて、烈の連打を耐え忍ぼうとする。
 しかし、烈のフックは一発一発が重い。ガードの上からでもカツオをよろめかせるパワーがある。

 カツオは、コーナーという名の死地に追い込まれた。
 後ろにも左右にも逃げ道はない。

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