2018年11月20日火曜日

実戦性の高いコンビネーション(3)

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「ワン、ツー、スリー、フォー……」
 月尾会長がカウントを進めていく。

「ああ……カツオさんが……」

「ボディフックの連打から顔面へのアッパーか……くそっ、味なコンビネーションを使ってきやがるぜ」

「そんなに高度なコンビネーションなんですか?」

「高度というより、シンプルなコンビネーションだ。だからこそ実戦性が高い」
 星乃塚は説明する。
「最初にボディフックの連打を放つ――これは左右から打つパンチだから、打たれたほうは無意識のうちにガードを横にひらいてしまう。つまり、ガードの内側がひろくなるんだ」

「なるほど……アッパーがはいりやすくなるんですね」

「それだけじゃねぇ。最初のボディ連打には、カツオの意識を下にさげる効果がある。そこからいきなり顔面に打たれると、反応ができずにまともに喰らっちまうんだ」

「外から内、下から上――その両方の変化を同時にやっているということですか……なるほど、たしかに実戦的なコンビネーションですね」

 最初のボディフックの連打が強烈だった。だからこそ最後のアッパーがきれいに決まったのだ。
 はっきり言って、四回戦のレベルじゃねぇ。いますぐにでもA級で試合ができる実力だ。
 いくらアレとはいえ、練習生のカツオにはまだはやすぎるぜ。いったい何を考えてこんな相手を連れてきたんだ……。

 星乃塚は、神保マネージャーを見やった。
 神保マネージャーは星乃塚の視線に気づくと、落ち着いた仕草(しぐさ)で眼鏡のずれを直し、にやっと笑みを浮かべた。

「ドSめ! 確信犯か!」
 おもわず声にだして、星乃塚は悪態をついた。


 ここまでか――
 滝本トレーナーは、ため息まじりに思った。
 予想以上に相手は強かったが、おおむね俺たちの思惑(おもわく)どおりの結果になった。
 対戦してくれた大賀選手に感謝せねばなるまい……。


 決まったな――
 と、片倉会長は思った。
 2ラウンド中盤でのノックアウトか……まずまずの結果だ。
 何より今回のスパーは内容が濃かった。烈にとっていい経験になった。

 心のなかでそう締めくくった、そのとき――

「な、何っ!? 立つのか!」

 キャンバス(床)に倒れ伏していたカツオが、体を起こした。
 片倉会長のいる赤コーナーのすぐ目の前で、ロープにしがみつくようにしながら必死に立ちあがろうとしている。

「ばかな! 手応(てごた)えは充分だった……烈のアッパーをまともに受けて、まだ立てると言うのか!?」

 ニュートラル・コーナーで待機している烈も、驚愕の表情を浮かべている。

「……シックス、セブン、エイト」

 カツオは、カウント8で立ちあがり、ファイティングポーズをとった。

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