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目は輝きをうしなっていない
「た、立ったぁ! カツオさん、立ちましたよぉ!」
俊矢はビデオを撮影していることを忘れ、小躍(こおど)りして歓喜した。
星乃塚は、驚嘆するばかりだった。
「カツオ……すごいぞ、おまえ! すごいファイティング・スピリットだ!」
レフェリー役の月尾会長が、
「だいじょうぶか? まだできるか?」
とカツオに問いかけた。
カツオはしっかりとファイティングポーズをとり、大きな声で、「できます!」と答えた。
月尾会長は、自身のシャツにカツオの両拳をこすりつけるようにしてカツオのグローブをふいた。
ダウンしたボクサーは床(ゆか)に手をつくため、グローブに細かいゴミがつく。それをふきとることもレフェリーの仕事のひとつなのだ。グローブにゴミがついたまま相手を打つと、裂傷や網膜剥離(もうまく・はくり)などが起こりやすくなるからだ。
月尾会長は、カツオのグローブから手をはなし、道をあけるようにして横に移動した。
そして――
「ファイト!」
闘いが再開された。
烈が、ニュートラル・コーナーをとびだすようにして駆けだした。
カツオに向かって突進する。
ダメージが残っているうちに、一気に決めてしまうつもりだ。
カツオは、みずから後退してロープを背負った。
ガードを固めて烈の攻撃に備えている。
ガードとヘッドギアの合間(あいま)から見えるカツオの目は、輝きをうしなってはいない。
まだ勝利をあきらめていない目だった。
「烈、待て!」
片倉会長は、声をはりあげて制止した。
「ファイトタイプGだ!」
烈は、カツオに肉迫(にくはく)したところで急停止した。
クロス・アームブロックの体勢でガードを固める。
烈は、ゆっくりと、警戒しながら間合いを詰めていく。
そして、接近に成功すると、慎重にクロス・アームブロックを解き、攻撃を開始した。
「そうだ、烈! それでいい!」
今度こそ、勝った――
片倉会長の顔に、会心(かいしん)の笑みがこぼれた。
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