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「それはどういう……あっ!」
俊矢は気づいた。
「カツオさんが、コーナーを背負(せお)ってる!」
前のラウンドは、背負っていたのはロープだった。
しかしいまは、コーナーポストを背にしている。
星乃塚は言う。
「ロープ際(ぎわ)に追い込んだ場合は、左右に空間があるから、まわり込まれる可能性がある。それを警戒するから、どうしても攻撃が少し散漫(さんまん)になる。
だが、コーナーに追い込んだ場合は逃げられる心配がねぇ。思うぞんぶん攻撃に専念できる」
星乃塚の言葉を証明するかのように、烈の攻撃が苛烈(かれつ)になった。
攻撃のテンポが速い。
ボディブローの連打――1発1発のパンチが強烈で、ドスン、ドスンという重々しい音が、撮影している俊矢のところまで聞こえてくる。
カツオは、ガードを固めて懸命に耐えている。
しかし、反撃する余裕(よゆう)はない。一方的にパンチを浴びつづけている。
烈は、カツオの顎(あご)に頭をつけた前傾姿勢でボディブローを連打する。
そのうちの1発がみぞおちに食い込んだ。
カツオが、うっ、と声をもらした。
烈が上体を起こした。
瞬間、顔の高さに空間ができ、その空間を使ってショートの左フックを放つ。
ドン、という重い音をたてて、烈の拳(こぶし)がカツオの顔面をとらえた。
カツオの体がぐらついた。
「いまだ!」
片倉会長が叫ぶ。
「ファイトタイプZだ!」
烈の全身から殺気のようなオーラがみなぎった。
そして、その迫力のままに、オーバーハンドの右フックを叩きつけた。
ズシャアアアァァン――
ものすごい音がした。
烈の拳がカツオの顔面を打ち抜き、カツオはがくっと真下(ました)にくずれ落ちた。
ひざまずいているかのように片膝(かたひざ)をつき、頭(こうべ)をたれる。
「ダウン!」
月尾会長が割ってはいり、烈にニュートラル・コーナーへ行くよう指示した。
烈はコーナーへ移動しながら、
「よしっ!」
と声を発し、ガッツポーズをとった。
片倉会長は意外に思った。
烈がリングの上で感情をあらわにするのはめずらしいことだった。
それだけ相手が強かったということだろう。
だが、これでもう決着はついた――
片倉会長は確信した。
烈の全力のパンチが豪快(ごうかい)に決まったのだ。彼はもう立つことはできない。
これで終わりだ。
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