2019年3月9日土曜日

また決まるかどうか(2)

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「それはどういう……あっ!」
 俊矢は気づいた。
「カツオさんが、コーナーを背負(せお)ってる!」

 前のラウンドは、背負っていたのはロープだった。
 しかしいまは、コーナーポストを背にしている。

 星乃塚は言う。
「ロープ際(ぎわ)に追い込んだ場合は、左右に空間があるから、まわり込まれる可能性がある。それを警戒するから、どうしても攻撃が少し散漫(さんまん)になる。
 だが、コーナーに追い込んだ場合は逃げられる心配がねぇ。思うぞんぶん攻撃に専念できる」

 星乃塚の言葉を証明するかのように、烈の攻撃が苛烈(かれつ)になった。
 攻撃のテンポが速い。
 ボディブローの連打――1発1発のパンチが強烈で、ドスン、ドスンという重々しい音が、撮影している俊矢のところまで聞こえてくる。

 カツオは、ガードを固めて懸命に耐えている。
 しかし、反撃する余裕(よゆう)はない。一方的にパンチを浴びつづけている。

 烈は、カツオの顎(あご)に頭をつけた前傾姿勢でボディブローを連打する。
 そのうちの1発がみぞおちに食い込んだ。
 カツオが、うっ、と声をもらした。

 烈が上体を起こした。
 瞬間、顔の高さに空間ができ、その空間を使ってショートの左フックを放つ。

 ドン、という重い音をたてて、烈の拳(こぶし)がカツオの顔面をとらえた。

 カツオの体がぐらついた。

「いまだ!」
 片倉会長が叫ぶ。
「ファイトタイプZだ!」

 烈の全身から殺気のようなオーラがみなぎった。
 そして、その迫力のままに、オーバーハンドの右フックを叩きつけた。

 ズシャアアアァァン――

 ものすごい音がした。

 烈の拳がカツオの顔面を打ち抜き、カツオはがくっと真下(ました)にくずれ落ちた。
 ひざまずいているかのように片膝(かたひざ)をつき、頭(こうべ)をたれる。

「ダウン!」

 月尾会長が割ってはいり、烈にニュートラル・コーナーへ行くよう指示した。


 烈はコーナーへ移動しながら、
「よしっ!」
 と声を発し、ガッツポーズをとった。

 片倉会長は意外に思った。
 烈がリングの上で感情をあらわにするのはめずらしいことだった。
 それだけ相手が強かったということだろう。

 だが、これでもう決着はついた――

 片倉会長は確信した。
 烈の全力のパンチが豪快(ごうかい)に決まったのだ。彼はもう立つことはできない。
 これで終わりだ。

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