**********
また決まるかどうか
ラウンド開始のブザーが鳴った。
闘いが再開される。
カツオは、速いフットワークを使ってサークリングをしながら、するどい左ジャブを放つ。
烈は、カツオのパンチをクロス・アームブロックで受けとめながら、ショートカット・ステップを使ってカツオに迫っていく。
俊矢は両者の動きをビデオカメラで追いながら、
「すごく既視感(きしかん)のある展開ですね」
と言った。
星乃塚が応(こた)えて言う。
「第1ラウンドのはじまりを再現しているかのような展開だな。ふたりともダメージを受けているはずなのに、それをまったく感じさせない動きだ。どちらもまだ集中力はつづいてるみたいだな」
「注視(ちゅうし)すべきは」
霧山は言う。
「カツオの変則ワンツーが、また決まるかどうかだ」
「そうだな。だが、向こうのセコンドは片倉さんだ。二度おなじ手が通用するとは思えねぇ……」
リングでは1ラウンド目の再現がつづいている。
カツオがフットワークを使いながらジャブ、ワンツーをくりだす。
烈がX字型のブロックでパンチを防ぎながらショートカット・ステップでカツオを追い詰めていく。
ラウンド開始からおよそ30秒――
カツオの背中が、青色のコーナーポストに当たった。
烈が前進して距離を詰める。
ここまでは1ラウンド目の序盤とおなじ展開だ。
だが――
「構えを解(と)かない!?」
俊矢は目をみはった。
烈はクロス・アームブロックの構えを解かずにそのまま前進をつづけたのだ。
体ごと押し込むようにして、カツオに密着する。
「まずい! 追い詰められた!」
カツオは青コーナーを背負(せお)うかっこうになった。
烈は頭をカツオの顎(あご)につけるようにして低い体勢をとると、ようやくクロス・アームブロックを解いた。
重いボディブローの連打をカツオの腹に叩き込んでいく。
俊矢は愕然(がくぜん)となった。
「接近してもクロス・アームブロックを解かなかった。そのまま前進して間合いを完全につぶしてしまった……それをやられたら、カツオさんはあのワンツーを打てない!」
ストレート系のパンチは、正面に空間がなければ打てない。
体が密着した状態では、あの変則ワンツーは打てないのだ。
星乃塚が渋面(じゅうめん)になって言う。
「やはり片倉さんはあまくなかったな。おなじ手は通用しねぇ」
「前のラウンドの終盤と、おなじ展開になってしまいましたね……」
「俊矢、よく見ろ。前のラウンドとはちがう。状況はもっとわるいぜ」
続きを読む