2019年3月8日金曜日

また決まるかどうか(1)

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また決まるかどうか



 ラウンド開始のブザーが鳴った。
 闘いが再開される。

 カツオは、速いフットワークを使ってサークリングをしながら、するどい左ジャブを放つ。

 烈は、カツオのパンチをクロス・アームブロックで受けとめながら、ショートカット・ステップを使ってカツオに迫っていく。

 俊矢は両者の動きをビデオカメラで追いながら、
「すごく既視感(きしかん)のある展開ですね」
 と言った。

 星乃塚が応(こた)えて言う。
「第1ラウンドのはじまりを再現しているかのような展開だな。ふたりともダメージを受けているはずなのに、それをまったく感じさせない動きだ。どちらもまだ集中力はつづいてるみたいだな」

「注視(ちゅうし)すべきは」
 霧山は言う。
「カツオの変則ワンツーが、また決まるかどうかだ」

「そうだな。だが、向こうのセコンドは片倉さんだ。二度おなじ手が通用するとは思えねぇ……」

 リングでは1ラウンド目の再現がつづいている。
 カツオがフットワークを使いながらジャブ、ワンツーをくりだす。
 烈がX字型のブロックでパンチを防ぎながらショートカット・ステップでカツオを追い詰めていく。

 ラウンド開始からおよそ30秒――
 カツオの背中が、青色のコーナーポストに当たった。
 烈が前進して距離を詰める。

 ここまでは1ラウンド目の序盤とおなじ展開だ。

 だが――

「構えを解(と)かない!?」

 俊矢は目をみはった。
 烈はクロス・アームブロックの構えを解かずにそのまま前進をつづけたのだ。
 体ごと押し込むようにして、カツオに密着する。

「まずい! 追い詰められた!」

 カツオは青コーナーを背負(せお)うかっこうになった。

 烈は頭をカツオの顎(あご)につけるようにして低い体勢をとると、ようやくクロス・アームブロックを解いた。
 重いボディブローの連打をカツオの腹に叩き込んでいく。

 俊矢は愕然(がくぜん)となった。
「接近してもクロス・アームブロックを解かなかった。そのまま前進して間合いを完全につぶしてしまった……それをやられたら、カツオさんはあのワンツーを打てない!」

 ストレート系のパンチは、正面に空間がなければ打てない。
 体が密着した状態では、あの変則ワンツーは打てないのだ。

 星乃塚が渋面(じゅうめん)になって言う。
「やはり片倉さんはあまくなかったな。おなじ手は通用しねぇ」

「前のラウンドの終盤と、おなじ展開になってしまいましたね……」

「俊矢、よく見ろ。前のラウンドとはちがう。状況はもっとわるいぜ」

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