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勝負強さ
第3ラウンド開始のブザーが鳴った。
両コーナーからカツオと烈が進みでて、リングのほぼ中央で対峙(たいじ)する。
カツオが速いフットワークを使ってサークリングをはじめた。
烈はクロス・アームブロックの構えで前進し、カツオに迫(せま)っていく。
俊矢はビデオカメラで両者の動きを追いながら、星乃塚に向かって言った。
「おなじ闘い方ですね……カツオさん、『決定的な何か』は思いつかなかったみたいですね」
「そいつはまだわからねぇさ」
星乃塚は応(こた)える。
「カツオはボクシングってものをよくわかってる。カツオなら、このラウンドにかならず何か仕掛けてくる!」
カツオが左ジャブを放った。
パン、という音をたてて、烈の額(ひたい)にヒットした。
フットワークを使いながら、2発、3発とジャブを重ねる。
いずれも烈の額にヒットし、そのたびに烈の顔がX字型のガードの奥でわずかに跳(は)ねあがった。
「カツオさん、額を狙って打ってますよ!」
「どうやらそのようだな。X字型のガードは顎(あご)を完全にカバーしているが、額のところはがら空(あ)きだ。カツオはそこを狙ってるようだな」
「でも、どうしてですか? 大賀選手がクロス・アームブロックをしているあいだは、あの変則ワンツーは当たりませんよ。顔をあげさせても固いガードが顎を守っているのですから」
「たしかにそのとおりだ。だが……」
星乃塚の言葉はそこでとぎれた。
代わって、霧山が言った。
「カツオは何かをやるつもりだ。決定的な何かを」
「カツオ……いったい何をやろうとしているんだ?」
滝本トレーナーはカツオの行動が理解できず、とまどっていた。
額を叩いたところでダメージは与えられない。驚異的なタフネスをほこる大賀烈を効かせるには顎を打ち抜かねばならないのだ。
しかし、クロス・アームブロックを解(と)かないかぎり顎を打つことはできない。
このラウンド内に勝負を決めなければならないというのに、カツオはなぜダメージを与えられない攻撃をくり返しているんだ?
滝本は困惑するばかりだった。
ダメだ、もっと上を向かせなければ――
カツオは思った。
接近しているときは、パンチが下から突きあげるような角度になるから、ジャブで上を向かせることができた。でも、距離があるとまっすぐ正面に向かう角度に近くなるから、額を叩いてもうまく顔をあげさせることができない――
そのとき、背中にロープが当たる感触があった。
無意識のうちにまっすぐ後退していたようだ。
無意識のうちにまっすぐ後退していたようだ。
烈が、前進して距離を詰めてくる。
カツオはストレートパンチを連打した。
ババババババババババ――
瞬発力を使い、一挙動(いっきょどう)で10発のパンチを打った。
11発目に左フックをひっかけ、左側にまわり込む。
ここで体力を使ってちゃダメだ――
フットワークを使って距離を保(たも)ちながら、カツオは思った。
こんな連打をやっていたらあれを決める体力がなくなってしまう。
はやく上を向かせる方法を考えなければ……。
フットワークを使いながら、ジャブを放った。
パン、という音をたてて額にヒットし、烈の顔がわずかに跳ねあがった。
やっぱりジャブじゃダメだ。威力がよわすぎる。
ならば――
カツオは、ワンツーを放った。
左ジャブからの右ストレートが額にクリーンヒットし、X字型のガードの奥で烈の顔が大きく跳ねあがった。
よし、右ストレートならいける!
カツオはあれを決める手応(てごた)えを得た。
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