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カツオの直感
「最大のピンチを乗り切ったな」
星乃塚は安堵(あんど)のため息をもらし、誠一と賢策を見やった。
「あの見学者たちが奇跡を呼び起こした。どうやらあのふたり、カツオの知り合いみたいだな」
「そうですよ」
俊矢は言う。
「あの人は誠一さんです。カツオさんの幼なじみで、カツオさんがもっとも信頼している人です」
「おまえ、知ってたのか?」
「はい、誠一さんとは一度お会いしたことがありますから。
となりの方(かた)は賢策さんだと思います。カツオさんの話によくでてくる人ですので、見てすぐにわかりました」
「あのふたり、端(はな)から入門希望者には見えなかったが、カツオを応援するつもりで見学にきたのか……
そう言えばカツオのやつ、ふたりの親友のおかげで立ち直ることができたって言ってたな。なるほど、あのふたりのことだったのか」
霧山が笑みをたたえている。
「カツオは、いい友だちに恵まれた」
俊矢は嬉々(きき)として言う。
「いまやペースは完全にカツオさんのモノになりましたね! スパーリングなので採点はつけていませんけど、このまま最後までいけばリング・ゼネラルシップ――主導権支配がポイントになって、カツオさんの判定勝ちってところですよね!」
「俊矢、その考えはあますぎるぜ」
星乃塚は言う。
「思いだしてみろ、カツオはあの闘い方を事前に却下したはずだ。どうして却下したんだ?」
「……あっ、そうか! あの闘い方は消耗が激しすぎて、最後までつづけるのがむずかしいんだ!」
「カツオはいま、体力の限界を超えている。いわば予備バッテリーで動いてるような状態だ。残り2ラウンド、あれをつづけられるだけのスタミナは残ってねぇ。動けるのはせいぜいあと1ラウンドだ」
「それじゃ……」
「次のラウンドで決めないかぎり、カツオに勝ち目はねぇ。だが、あの闘い方じゃダメだ。消耗が激しいわりにダメージを与えることができねぇ。
もっと決定的な何かをやらなければ、勝利はつかめねぇ」
「その『決定的な何か』というのは?」
「それは――」
星乃塚は言った。
「カツオの直感にまかせるしかないな」
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