2019年3月13日水曜日

力の解放(1)

**********

力の解放



 練習生たちが、うおおっ、と驚嘆(きょうたん)の声をあげた。

「立った! カウントぎりぎりで立ったぞ!」
「さすがにもうダメかと思ったぜ! 信じられねぇガッツだ!」

「た、立ちましたよ!」
 俊矢は興奮のあまりにビデオカメラを落としそうになりながら、星乃塚たちに視線を向ける。
「カツオさん、あの状態から立ちあがりましたよぉ!」

「ああ、立ちやがったな、あいつ!」
 星乃塚は目を細めている。

「カツオは、真(まこと)の武人だ!」
 霧山が賞賛の声をあげた。
「想いの強さが肉体の限界を超越した! カツオは、魂の拳士だ!」


 月尾会長が、
「だいじょうぶか? まだできるか?」
 と問いかけると、カツオはファイティングポーズをとり、力強くうなずいた。

 月尾会長は、自身のシャツでカツオのグローブをふきながら忠告する。
「カツオ、1発でもいいパンチを喰らったら、すぐにストップするからな」

 それは『劣勢になったら即(そく)テクニカル・ノックアウトまけ』という意味だった。
 カツオは、うなずいて答えた。

 月尾会長は、道をあけるようにカツオのもとをはなれる。

 そして――

「ファイト!」
 闘いを再開させた。


 カツオは立った。
 滝本トレーナーの目の前で立ちあがった。
 あ然として言葉がなかった。

 闘いは再開された。

 滝本トレーナーははっと我(われ)に返ったが、やはり言葉はなかった。
 かろうじて立てたものの回復できたわけではないのだ。正直、カツオに闘える力が残っているとは思えない。カツオに与えられる指示など何もなかった。

 滝本トレーナーはタオルを手にとった。
 そして、わずかでも劣勢になったらすぐに投げいれる覚悟を決めた。


「烈の全力のパンチをもらって、立ちあがっただと!?」
 片倉会長はわが目をうたがった。
 有り得ないことだったが、いつまでも驚いてはいられない。
 闘いは再開されたのだ。

 片倉は、声をはりあげて烈に指示をだした。
「烈、ファイトタイプZだ! 相手はまだダメージから回復していない! 一気に勝負を決めろ!」

 続きを読む