2019年2月5日火曜日

スピードで、攻撃を防御に変える(3)

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 ラウンド開始のブザーが鳴った。

 カツオは速いフットワークを使って俊矢の周囲をサークリングする。
 左まわりで移動しながら、左ジャブを放つ。スパーリングのときよりも力を抑(おさ)えたかるいパンチ――
 俊矢の固いクロス・アームブロックに当たってはじき返された。

 フットワークを使いながら、ジャブを2発、3発と重ねる。
 いずれも俊矢のX字型のブロックにはばまれ、ヒットしない。

 俊矢は、クロス・アームブロックでしっかりと防御しながら、ショートカット・ステップを使ってカツオの進路をふさいでいく。

 カツオは右へ左へ方向転換をくり返し、フットワークを維持しようとする。
 しかし、俊矢のショートカット・ステップは、カツオの動きをうわまわっていた。
 カツオはまわり込むことができずに後退を余儀(よぎ)なくされる。

 カツオの背中がロープに当たった。
 これ以上、後退できない。

 俊矢はさらに前進し、距離を詰めた。
 攻撃に転じるため、クロス・アームブロックを解(と)こうとする。

 その瞬間――

「ふううぅぅぅぅん!」

 カツオは歯を食いしばりながら、左右のショートストレートを連打した。

「うわあっ!」
 俊矢は仰天(ぎょうてん)し、あわててクロス・アームブロックを固め直す。

 ババババババ――

 すさまじい回転で放たれたショートパンチの連打が、俊矢のブロックを叩く。


 7発目に左フックを放った。
 俊矢のブロックに拳(こぶし)をひっかけるようにしながら、左側にまわり込む。

 カツオはフットワークを使い、リングの中央に移動した。
 距離をとり直すことに成功したのだ。

「そ、そうか! わかりましたよ、カツオさんのやろうとしていることが!」
 俊矢が興奮した声をあげた。
「距離がはなれているときは、カツオさんの高速フットワークで得意のアウトボクシングをする。
 そして、相手に距離を詰められてしまったときは、相手が攻撃を開始する前に回転の速い連打を放ち、相手に攻撃する隙(すき)を与えない――ということですね!」

「そのとおりだよ……」
 カツオは答えたが、息がみだれていて声がうまくでなかった。

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