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ラウンド開始のブザーが鳴った。
カツオは速いフットワークを使って俊矢の周囲をサークリングする。
左まわりで移動しながら、左ジャブを放つ。スパーリングのときよりも力を抑(おさ)えたかるいパンチ――
俊矢の固いクロス・アームブロックに当たってはじき返された。
フットワークを使いながら、ジャブを2発、3発と重ねる。
いずれも俊矢のX字型のブロックにはばまれ、ヒットしない。
俊矢は、クロス・アームブロックでしっかりと防御しながら、ショートカット・ステップを使ってカツオの進路をふさいでいく。
カツオは右へ左へ方向転換をくり返し、フットワークを維持しようとする。
しかし、俊矢のショートカット・ステップは、カツオの動きをうわまわっていた。
カツオはまわり込むことができずに後退を余儀(よぎ)なくされる。
カツオの背中がロープに当たった。
これ以上、後退できない。
俊矢はさらに前進し、距離を詰めた。
攻撃に転じるため、クロス・アームブロックを解(と)こうとする。
その瞬間――
「ふううぅぅぅぅん!」
カツオは歯を食いしばりながら、左右のショートストレートを連打した。
「うわあっ!」
俊矢は仰天(ぎょうてん)し、あわててクロス・アームブロックを固め直す。
ババババババ――
すさまじい回転で放たれたショートパンチの連打が、俊矢のブロックを叩く。
7発目に左フックを放った。
俊矢のブロックに拳(こぶし)をひっかけるようにしながら、左側にまわり込む。
俊矢のブロックに拳(こぶし)をひっかけるようにしながら、左側にまわり込む。
カツオはフットワークを使い、リングの中央に移動した。
距離をとり直すことに成功したのだ。
「そ、そうか! わかりましたよ、カツオさんのやろうとしていることが!」
俊矢が興奮した声をあげた。
「距離がはなれているときは、カツオさんの高速フットワークで得意のアウトボクシングをする。
そして、相手に距離を詰められてしまったときは、相手が攻撃を開始する前に回転の速い連打を放ち、相手に攻撃する隙(すき)を与えない――ということですね!」
「そのとおりだよ……」
カツオは答えたが、息がみだれていて声がうまくでなかった。
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