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開始から1分以内が勝負だ!
カツオと烈は、ヘッドギアとノーファールカップを装着し、14オンスのグローブをはめて、リングにはいった。
前回と同様、カツオが青コーナー側、烈が赤コーナー側に陣をとる。
カツオのセコンドに滝本トレーナー、烈のセコンドには片倉会長が、それぞれついている。
レフェリー役として、月尾会長がリングにはいった。
これで、スパーリングの準備は整った。
次のラウンドの開始ブザーとともに、スパーリングが開始される。
「カツオ――」
滝本トレーナーは、声をひそめて言った。
「あの技を使うチャンスは、おそらく1分以内にやってくる。最初の1分が勝負だ! 全神経を集中させろ! 開始直後から山場のつもりでいけ!」
「はい!」
カツオは力強く答えた。
前回のスパーリングのとき、滝本トレーナーはいっさい指示をださずに口をとざしていた。
だが今回は、最初から指示を与えている。
カツオはセコンドに頼もしい味方がいることを心強く思った。
片倉会長は、烈の耳もとで言った。
「烈、おそらく相手は前回よりもさらにスピードをあげてくる。最初が肝心(かんじん)だ。1ラウンド目につかまえそこねたら相手にペースをにぎられ、そのままずるずるいってしまう可能性がある。
開始から1分が勝負だ! 1分以内に、かならず相手を追い詰めるんだ!」
烈は、するどく目を輝かせて応(こた)えた。
「1分もかけたりはしねぇ。30秒で追い詰めてみせる!」
自信に満ちた力強い声だった。
俊矢はビデオカメラを構え、撮影の準備を整えた。
「なんだか、すごく緊張してきました……カツオさんのスパーを観(み)るのは、自分が闘うときよりも緊張します」
霧山が緊迫した声で言った。
「俊矢、最初から気を抜かずにしっかり観るんだ。おそらく、開始から1分以内に何かが起こる!」
星乃塚が言う。
「俺もそう思うぜ。ふたりとも最初から勝負にいくつもりなのが顔にでてやがる。この闘い、最初の1分がクライマックスかもしれねぇ!」
ふたりの言葉を聞いて、俊矢はますます緊張した。
心臓が早鐘(はやがね)を打っている。
そして、ラウンド開始のブザーが鳴った。
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