2019年2月21日木曜日

白熱の予感(3)

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 と、そこへ、ひとりの練習生がやってきた。
「会長。練習を見学したいという人がふたり、きてますが」

 月尾会長はこまった顔になった。
「このタイミングで見学か……まいったな、誰も練習してないぞ」

「いや、ちょうどいいと思いますよ」
 星乃塚が言った。
「これから、ふだんなら絶対に見られないものがはじまるんですからね。その運のいい連中に、今日のスパーを見せてやりましょうよ」

 月尾会長はしばし考え、そして言った。
「そうだな、ふだんの練習を見せるより、そのほうがボクシングの魅力や醍醐味(だいごみ)が伝わるかもしれんな。……よし、そのふたりを案内しろ」

 会長に言われ、練習生は踵(きびす)を返した。

 しばらくして、練習生はふたりの若者をつれてもどってきた。

「あっ!」
 カツオはおもわず声をあげた。
 見学希望者は、誠一と賢策だったのだ。

「どうした、知り合いか?」
 と月尾会長に訊(き)かれたが、
「いえ、なんでもないです……」
 カツオは言葉をにごしてごまかした。

 誠一と賢策は、練習生が用意したパイプ椅子に腰をおろし、ものめずらしそうにジムのなかを見渡している。

 誠一と目が合った。
 誠一は微笑みを浮かべ、小さくうなずく。
 カツオは、さっき会ったときに誠一がなぜ激励の言葉を口にしなかったのか、ようやく理解した。
 誠一はスパーリングを観戦しながら、リアルタイムで応援するつもりなのだ。

 カツオはふたりに向かって笑みを返した。
 内側から闘志がわきあがってくるのを感じる。

 誠一くんと賢策くんが見ている前で恥ずかしい闘いはできない!
 よぉし、やってやる!
 今日は最高のファイトをするぞ!



 カツオが鏡(かがみ)の前でフォームチェックのシャドーボクシングをやっているとき、片倉会長と大賀烈が月尾ジムに到着した。
 移動中の車のなかで準備をすませたらしく、烈の拳(こぶし)にはすでにバンデージが巻かれている。

 烈は、カツオに視線を向けた。
 烈は小さく礼をし、すぐにウォーミングアップをはじめた。
 前回のように挑発をする気はないようだ。その必要はないのだろう。カツオの側(がわ)から試合形式でやることを申し出た時点で、カツオが真剣勝負をやるつもりなのは明らかなのだから。

 挑発はなかったが、烈の眼光はするどく輝いていた。闘志に満ちあふれた目だった。

 今回もまた、白熱した闘いになりそうだった。

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