2019年2月18日月曜日

再戦の頃合い(3)

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 烈は15ラウンドの練習を終え、クールダウンのストレッチをしている。
 片倉会長は烈のもとへ行き、言った。
「烈、たったいま月尾ジムのマネージャーから電話があった。また田中(たなか)くんとスパーをやらないかという申し出だった」

「田中選手と!?」

「それも、前回とおなじように、試合形式でやりたいと言っている」

「向こうからそう言ってきたのか?」

「ああ、そうだ。3日後でどうかと言っているが、どうする? 受けるか?」

 正直、願ってもない申し出だった。だから、烈がなんと答えるかはわかっていた。

 烈は、語気(ごき)を強くして言った。
「もちろんだ! その勝負、受けて立つ!」

 やはり、思ったとおりの答えだった。

「今度は田中くんのほうがこっちへきてもいいと言ってるが、どうする?」

「いや、こっちから行くぜ。そのほうが、お互いに熱くなれるからな」

「そうか、わかった」

 片倉会長は、月尾ジムに返答の電話をいれるため、その場をはなれた。
 歩きながら、おもわず笑みがこぼれる。まさか向こうから話をもちかけてくるなんて完全に予想外だった。

 片倉は思った。
 おそらく田中くんのほうでも対策を練(ね)り、練習を積み重ねたのだろう。そして、烈に勝てるだけの自信がついた。だから、あんなかたちでノックアウトされたにもかかわらず、向こうからやりたいと言ってきたのだろう――

 しかし、いくらフットワークにみがきをかけたところで、烈には勝てない。なぜなら、烈のほうも進化しているからだ――

 片倉会長は、カツオがまたサークリング・テクニックでくると読んでいた。打ち合いになったら烈に勝てる可能性などない。得意のスピードで対抗しようと考えるのは明白だ。
 おそらくあれからスピードをみがき、さらに速いフットワークができるようになったのだろう。もっと速くなれば、烈から逃げ切れると信じて。

 だが、烈はあれからショートカット・ステップにみがきをかけた。前にスパーリングをやったときよりも格段にレベルアップしている。
 あとは、実戦で使う経験さえすれば完全にモノになる。

 そして、実戦で使うチャンスが、向こうから転がり込んできた。

 棚からぼた餅とは、まさにこのことだな――

 片倉会長は相好(そうごう)がくずれてしまうのを抑(おさ)えられぬまま、月尾ジムに返答の電話をかけた。



 こうして、カツオと烈の2度目のスパーリングが決まった。
 8月も残りわずかとなり、夏がもうすぐ終わろうとしている時節だった。

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