**********
カツオが変則パンチの練習をはじめてから、1週間が経(た)った。
ミットをもつ滝本トレーナーが、今日も威勢のいい声をはりあげている。
「よし、ナイスパンチ!」
「いいぞ、カツオ! いまの感じだ!」
滝本トレーナーの言葉は、肯定的なものばかりだった。
それだけカツオの動きがよくなったということだ。
ミット打ちの効果だろう、カツオは意外とはやくコツをつかんでいた。見たかぎりでは、すでに実戦で使えるレベルまで上達している。
神保マネージャーは、右手の中指で眼鏡のずれを直し、口もとに笑みを浮かべた。
「そろそろ、いい頃合(ころあ)いかもしれませんね」
1分間のインターバルのとき、神保マネージャーはカツオと滝本トレーナーのもとへ行き、言った。
「どうでしょう、もう一度、大賀くんとスパーリングをやってみませんか?」
カツオと滝本トレーナーは驚いた顔をしている。
滝本トレーナーはカツオに視線を向けた。答えはカツオにまかせるという意思表示だ。
カツオは、大きな声で答えた。
「はい! ぜひお願いします!」
続きを読む