2019年2月14日木曜日

ピースがひとつに

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ピースがひとつに



 カツオは眠れない夜をすごしていた。

 帰宅してから大賀烈に勝つ方法をいろいろと考えた。
 アウトボクサーがパワーファイターに勝った試合の映像をいくつか観(み)て『答え』につながるようなヒントをさがした。
 しかし何も得ることはできなかった。

 今日はこれぐらいにしてもう寝よう――
 そう思って床(とこ)についたのだが、いつまで経(た)っても眠れない。

 カツオは床からでて、部屋の灯(あか)りをつけた。
 深夜2時をすぎていた。

 内側で何かが昂(たか)ぶっている。
 興奮している感覚と、「もう喉(のど)まででかかっているのに言葉がでてこない」というようなもどかしさが混在しているような感じだった。

「この感じは、もしかすると……」
 カツオは思った。
「もしかすると、オレはもう『答え』をだせる条件が整っていて、潜在意識がそれを知らせているのかもしれない」

 だとしたら『答え』はすでにオレのなかにある。
 あとは、オレがそれに気づくだけだ。

 カツオは、これまでの練習の失敗経験でわかったことを、もう一度ふり返ってみることにした。


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 まずオレは、『クロス・アームブロックの弱点をつく』という発想を軸にして、大賀選手に勝つ方法を考えた。
 クロス・アームブロックには「構えを解(と)かないかぎり攻撃ができない」という弱点があるんだ。

 そしてオレは、ふたつの攻略案を考えた。


 ひとつ目は、
「回転の速い連打を使うことで、相手に攻撃をさせない」
 という戦法だ。


 しかしこの戦法は、「消耗(しょうもう)が激しい」、「見せかけでごまかすような闘い方になってしまう」という致命的な欠点があった。

 そしてオレは、大賀選手に勝つには、
『急所に強いパンチを当てなければならない』
 と思い至(いた)った。


 そして次に、
「踏み込む勢いを利用してレバーブローを打つ」
 という戦法を試(こころ)みた。


 だが、これにも欠点があった。
 踏み込むスピードをあげるほど、打ったあとにはなれることができないため、みずから接近してしまうという結果になるんだ。

 また、ボディブローでは大賀選手にダメージを与えるのはむずかしいとわかった。
 ボディブローを効かせるには、意識をボディからそらし、「不意打ちのようにして当てなければならない」のだけれど、大賀選手は「相手から目を切らない」ということを徹底しているため、不意打ちのようなかたちでヒットさせるのは不可能に近い。

 そして、大賀選手にダメージを与えるには、
『絶対的な急所である顎(あご)を狙わなければならない』
 と思い至った。


 この経験から得たキーワードを思い返してみよう。

 クロス・アームブロックの弱点をつく……
 急所にパンチを当てる……
 不意打ちのようにして当てる……
 相手から目を切らないボクサーは打たれ強い……
 狙う場所は顎……
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「そうか!」
 カツオは、はっとなった。
「これなら、いける!」

 とつぜんひらめいた『答え』にカツオは興奮した。まるでバラバラだったピース(小片)が一瞬にしてひとつになったかのようだ。

「この技を実戦で決めるのは簡単なことじゃない。
 でも、もし決まったら、相手がどんなに打たれ強くても効かせることができる――いや、倒すことができる!」

 カツオはこの『答え』を試すべく、部屋のなかでシャドーボクシングをはじめた。
 興奮して、じっとしていられなかったのだ。

 もうすぐ午前3時になろうとしていた。

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