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ピースがひとつに
カツオは眠れない夜をすごしていた。
帰宅してから大賀烈に勝つ方法をいろいろと考えた。
アウトボクサーがパワーファイターに勝った試合の映像をいくつか観(み)て『答え』につながるようなヒントをさがした。
しかし何も得ることはできなかった。
今日はこれぐらいにしてもう寝よう――
そう思って床(とこ)についたのだが、いつまで経(た)っても眠れない。
カツオは床からでて、部屋の灯(あか)りをつけた。
深夜2時をすぎていた。
内側で何かが昂(たか)ぶっている。
興奮している感覚と、「もう喉(のど)まででかかっているのに言葉がでてこない」というようなもどかしさが混在しているような感じだった。
「この感じは、もしかすると……」
カツオは思った。
「もしかすると、オレはもう『答え』をだせる条件が整っていて、潜在意識がそれを知らせているのかもしれない」
だとしたら『答え』はすでにオレのなかにある。
あとは、オレがそれに気づくだけだ。
カツオは、これまでの練習の失敗経験でわかったことを、もう一度ふり返ってみることにした。
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まずオレは、『クロス・アームブロックの弱点をつく』という発想を軸にして、大賀選手に勝つ方法を考えた。
クロス・アームブロックには「構えを解(と)かないかぎり攻撃ができない」という弱点があるんだ。
クロス・アームブロックには「構えを解(と)かないかぎり攻撃ができない」という弱点があるんだ。
そしてオレは、ふたつの攻略案を考えた。
ひとつ目は、
「回転の速い連打を使うことで、相手に攻撃をさせない」
という戦法だ。
しかしこの戦法は、「消耗(しょうもう)が激しい」、「見せかけでごまかすような闘い方になってしまう」という致命的な欠点があった。
そしてオレは、大賀選手に勝つには、
『急所に強いパンチを当てなければならない』
と思い至(いた)った。
そして次に、
「踏み込む勢いを利用してレバーブローを打つ」
という戦法を試(こころ)みた。
だが、これにも欠点があった。
踏み込むスピードをあげるほど、打ったあとにはなれることができないため、みずから接近してしまうという結果になるんだ。
踏み込むスピードをあげるほど、打ったあとにはなれることができないため、みずから接近してしまうという結果になるんだ。
また、ボディブローでは大賀選手にダメージを与えるのはむずかしいとわかった。
ボディブローを効かせるには、意識をボディからそらし、「不意打ちのようにして当てなければならない」のだけれど、大賀選手は「相手から目を切らない」ということを徹底しているため、不意打ちのようなかたちでヒットさせるのは不可能に近い。
そして、大賀選手にダメージを与えるには、
『絶対的な急所である顎(あご)を狙わなければならない』
と思い至った。
この経験から得たキーワードを思い返してみよう。
クロス・アームブロックの弱点をつく……
急所にパンチを当てる……
不意打ちのようにして当てる……
相手から目を切らないボクサーは打たれ強い……
狙う場所は顎……
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「そうか!」
カツオは、はっとなった。
「これなら、いける!」
とつぜんひらめいた『答え』にカツオは興奮した。まるでバラバラだったピース(小片)が一瞬にしてひとつになったかのようだ。
「この技を実戦で決めるのは簡単なことじゃない。
でも、もし決まったら、相手がどんなに打たれ強くても効かせることができる――いや、倒すことができる!」
カツオはこの『答え』を試すべく、部屋のなかでシャドーボクシングをはじめた。
興奮して、じっとしていられなかったのだ。
もうすぐ午前3時になろうとしていた。
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