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カツオは言う。
「この闘い方は、クロス・アームブロックの弱点につけこむ方法なんだ」
「クロス・アームブロックの弱点、ですか?」
「そう、つまり、あの構え方をしているあいだは、相手は攻撃ができないってことさ。
あの構えのときはカウンターを打たれる心配がない。だから、ためらうことなくおもいっきり踏み込むことができるんだ」
「そして全体重をのせたボディブローを浴びせたら、すぐにまた距離をとり直してアウトボクシングを再開する――ということですね。
なるほど、すばらしいアイデアです! 今度こそ、いけますよ!」
「ただ、これをやるには、いまのオレの踏み込みではおそすぎる。このていどのスピードじゃ大賀選手を効かせることはできない」
「そんなことないと思いますよ。さっきのカツオさんの踏み込みは、びっくりするほど速かったですから」
「いや、まだまだスピードがたりない。大賀選手のボディがいかに強靱(きょうじん)か、オレは身をもって知っている。レバーやみぞおちにパンチを当てているのにビクともしなかった。あの腹を効かせるには、もっともっと踏み込みを速くしなければならない――
そういうわけだから、俊矢、練習をつづけるよ」
カツオと俊矢は、マスボクシングを再開した。
カツオは踏み込みのスピードをみがく練習を積み重ねた。
走り込みで鍛えた脚力がカツオにはある。勢いよく跳び込むコツは意外とはやくつかんだ。
サンドバッグ打ちでは、全身で体当たりをするかのような強烈なパンチを叩き込んでいる。
カツオのボディブローは、日に日に強さを増していた。
だが、滝本トレーナーは頭(かぶり)をふってつぶやく。
「カツオ、アイデアそのものはわるくないぜ。よく考えたと思う。だが、勝てるかどうかはべつだ。その闘い方だと、大賀選手につかまっちまうぜ」
カツオはまだ、そのことに気づいていない。
滝本トレーナーは、いますぐ教えてやりたい気持ちをぐっとこらえ、カツオの練習を見守りつづけた。
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