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第四章
カツオはいい先輩をもったな
「星乃塚(ほしのづか)」
名前を呼ばれ、星乃塚秀輝(ひでき)は後ろを振り返った。
練習を終え、着替えをすませて更衣室をでたところだった。
声の主(ぬし)は、滝本(たきもと)トレーナーだった。
「滝本さん……どうかしたんですか?」
「いや、べつに大(たい)したことじゃないんだが……ちょっと頼まれてくれないか?」
滝本トレーナーは暗い声で言った。
あのスパーリング以降、ずっと元気をなくしている。
星乃塚が「俺にできることなら」と答えると、滝本トレーナーは透明のケースにはいったディスクと、住所と地図が記(しる)されたメモを星乃塚にさしだした。
「このディスクにこのあいだのスパーが録画されている。これを、カツオにとどけてきてくれないか?」
「このあいだのスパーですか……」
「カツオはまだ、これを観(み)る気にはなれねぇかもしれん。だが、渡しておきてぇんだ。
とどけてくれるか?」
「べつにいいですけど、でも、なんで俺に――」
そこまで言って、星乃塚は言葉をとめた。
滝本トレーナーの意図(いと)を察したからだ。
「わかりました。そういうことなら俺にまかせてください」
星乃塚はディスクとメモを受けとった。
そのとき、
「星乃塚くん」
滝本トレーナーの背後から神保(じんぼ)マネージャーがぬっと姿をあらわし、星乃塚はびくっとなった。
「マネージャー! いつからそこに!?」
「たしか、滝本トレーナーが『ちょっと頼まれてくれないか』と言ったあたりからですかね」
「最初からじゃねぇか」
「それはさておき――」
神保マネージャーは右手の中指をピンと立てて眼鏡のずれを直し、冷たい声で言った。
「カツオくんに会うのはかまいませんが、くれぐれもよけいなことを言わないようにしてください。自力で立ち直ることも、アレの重要な目的なんですからね」
「……わかったよ」
「本当ですか? 星乃塚くん、口がかるいから心配ですね」
「しつけぇな、何も言わねぇよ。ふつうにとどけるだけだ」
星乃塚は滝本トレーナーに目配(めくば)せした。
『だいじょうぶ、ちゃんとやりますから』という合図(あいず)だったが、カツオのことがよほど心配なのか、滝本トレーナーの顔はくもったままだった。
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