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自分よりも強い相手に勝つためには
星乃塚と霧山は、カツオの家をあとにした。
もともと家の方角がちがうため、来た道をいったんもどらなければならない。
街灯に虫が飛びかう夜の町を、星乃塚は駅に向かって歩(ほ)を進める。
霧山は自転車を押しながら、肩をならべるようにして星乃塚のとなりを歩いている。
「星乃塚さん、最後の話は、意外にも本当にいい話でしたね」
霧山が口をひらいた。
星乃塚は、ふふん、と得意げに笑ってみせた。
「『意外にも』はよけいだが、我(われ)ながらいい話だったと思うぜ。本来はああいうことを人に教えたりしねぇんだが、カツオの場合はなんて言うか、つい教えてやりたくなるんだよな。ボクシングに対する肯定感が半端(はんぱ)じゃねぇからな、あいつ」
「とはいえ、いささか話しすぎたかもしれませんね」
「霧山だっていろいろアドバイスしてたぞ。おまえ、ふだんは無口で無愛想(ぶあいそう)なくせに、後輩のこととなると『やさしすぎる』ってくらい親身(しんみ)になるよな。親ばかならぬ『先輩ばか』ってところだな」
「星乃塚さんに言われたくありませんよ。……でも、神保マネージャーに釘(くぎ)をさされていただけに、少し後ろめたい気持ちになりますね」
「その必要はないぞ。アドバイスをしちゃいけねぇのは試練が終わるまでのことだ。カツオはもう自力で立ち直ってたんだ。何もやましいことなんてねぇさ」
「そうは言っても、神保マネージャーのことですから、ねちっこく追求してくるかもしれませんよ」
「だいじょうぶだ、あのドSには俺がうまく言っておく。心配すんな」
星乃塚は、自信満々に笑ってみせた。
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