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クロス・アームブロックのデメリット
「あの、星乃塚さんと霧山さんにひとつお訊(き)きしたいんですが……」
カツオは、両先輩に向かって質問した。
「もし大賀選手のような圧倒的なパワーをもつ相手と対戦した場合、おふたりならどうやって闘いますか?」
星乃塚と霧山は互いに顔を見合わせた。どちらが先に答えるか、確認し合っているようだ。
星乃塚が、お先にどうぞ、と目配(めくば)せをした。
霧山が、カツオに向き直って答える。
「自分だったら、はなれた間合いから得意の右ストレートを狙いすまして打つ。
もし接近されてしまった場合は、ガードを高くあげて相手のパンチをブロックし、丁寧(ていねい)に防御をしながら、タイミングを見計らって得意の右をショートで叩き込む」
「なるほど……霧山さんらしい闘い方ですね」
霧山は右ストレートを得意としている。空手の逆突き(ぎゃくづき)のように狙いすまして打ち、当たれば1発で倒せる破壊力をもっていた。
「俺の場合は――」
つづいて、星乃塚が口をひらく。
カツオは固唾(かたず)をのみ、星乃塚の言葉を待った。
ボクサー星乃塚秀輝のニックネームは〈タクティシャン(策士)〉であり、頭脳的な闘い方をすることで知られている。試合中にがらりとファイト・スタイルを変えることもあり、変幻自在のボクシングをする。
タクティシャンと呼ばれているこの人だったら、いったいどんな闘い方をするのだろう――カツオは期待で胸が躍(おど)った。
「俺の場合は――」
星乃塚は言った。
「やってみなくちゃわからねぇな」
「え……」
「カツオ、そんな顔するな。俺はべつに冗談で言ってるわけじゃねぇ。俺の闘い方はいつもそうなんだ。
最初の1ラウンド目にジャブやフェイントを使ってさぐりをいれる。そのときに相手の能力や癖(くせ)を、体で読みとる。そのうえで闘いながら戦略を練(ね)り、作戦を決める。
俺はいつだってそうなんだ」
「なるほど……星乃塚さんらしいですね」
「でもまあ、あえて言えば、俺だったらクロス・アームブロックのデメリットにつけ込む方法を考えるね」
「クロス・アームブロックのデメリット!?」
「そうだ、あの構え方には大きなデメリットがある。だからこそ、現在では使う選手がほとんどいなくなり、ふるいテクニックとしてすたれちまったんだ」
「いったいなんですか、そのデメリットというのは!?」
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