2019年1月25日金曜日

クロス・アームブロックのデメリット(1)

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クロス・アームブロックのデメリット



「あの、星乃塚さんと霧山さんにひとつお訊(き)きしたいんですが……」
 カツオは、両先輩に向かって質問した。
「もし大賀選手のような圧倒的なパワーをもつ相手と対戦した場合、おふたりならどうやって闘いますか?」

 星乃塚と霧山は互いに顔を見合わせた。どちらが先に答えるか、確認し合っているようだ。

 星乃塚が、お先にどうぞ、と目配(めくば)せをした。

 霧山が、カツオに向き直って答える。
「自分だったら、はなれた間合いから得意の右ストレートを狙いすまして打つ。
 もし接近されてしまった場合は、ガードを高くあげて相手のパンチをブロックし、丁寧(ていねい)に防御をしながら、タイミングを見計らって得意の右をショートで叩き込む」

「なるほど……霧山さんらしい闘い方ですね」

 霧山は右ストレートを得意としている。空手の逆突き(ぎゃくづき)のように狙いすまして打ち、当たれば1発で倒せる破壊力をもっていた。

「俺の場合は――」
 つづいて、星乃塚が口をひらく。

 カツオは固唾(かたず)をのみ、星乃塚の言葉を待った。
 ボクサー星乃塚秀輝のニックネームは〈タクティシャン(策士)〉であり、頭脳的な闘い方をすることで知られている。試合中にがらりとファイト・スタイルを変えることもあり、変幻自在のボクシングをする。
 タクティシャンと呼ばれているこの人だったら、いったいどんな闘い方をするのだろう――カツオは期待で胸が躍(おど)った。

「俺の場合は――」
 星乃塚は言った。
「やってみなくちゃわからねぇな」

「え……」

「カツオ、そんな顔するな。俺はべつに冗談で言ってるわけじゃねぇ。俺の闘い方はいつもそうなんだ。
 最初の1ラウンド目にジャブやフェイントを使ってさぐりをいれる。そのときに相手の能力や癖(くせ)を、体で読みとる。そのうえで闘いながら戦略を練(ね)り、作戦を決める。
 俺はいつだってそうなんだ」

「なるほど……星乃塚さんらしいですね」

「でもまあ、あえて言えば、俺だったらクロス・アームブロックのデメリットにつけ込む方法を考えるね」

「クロス・アームブロックのデメリット!?」

「そうだ、あの構え方には大きなデメリットがある。だからこそ、現在では使う選手がほとんどいなくなり、ふるいテクニックとしてすたれちまったんだ」

「いったいなんですか、そのデメリットというのは!?」

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