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格闘技の現実
画面のなかで、カツオと烈の闘いがつづく。
ここからは烈の一方的なペースだった。
烈がボディフックの連打から左アッパーを返し、カツオをダウンさせる。
なんとか立ちあがったカツオは、逆転をねらいロープ・ア・ドープ作戦にでる。
だが、この作戦は読まれていた。烈は力をセーブしたショートパンチで、カツオの体力をそぎ落とす戦法にでる。
第3ラウンド、カツオは賭(か)けにでた。
強打者の烈に打ち合いをいどむ。
わずかではあるが、このほうがまだ逆転の可能性があるのだ。
壮絶(そうぜつ)な打ち合い――
しかし、打ち合いではやはり烈のほうに分(ぶ)があった。
左フックでカツオをぐらつかせると、強烈なフックの3連打でたたみかけた。
くずれ落ちそうになるカツオを月尾会長が正面から抱きとめ、テクニカル・ノックアウトでスパーリングが終了した。
リングに寝かせたカツオを、滝本トレーナーと月尾会長が介抱(かいほう)している姿をしばらく映(うつ)したところで、映像は終了した。
重い沈黙がつづいた。
最初に口をひらいたのは、霧山だった。
「月尾会長の割ってはいるタイミングはすばらしかった。あのときカツオを抱きとめていなかったら、頭からあぶない倒れ方をした可能性が高い」
「まったくだ」
星乃塚も同意する。
「通常、スパーリングにレフェリーはつかないものだが、あのときは会長がレフェリーをやってくれててよかったぜ。いい仕事をしてくれたよ」
カツオは、ふたりが気をつかっているのを感じた。
あんなまけ方をしたので、闘いの内容に関する話題をさけ、会長のレフェリングについて話している――そう感じたのだ。
しかし、それは無用な気づかいだった。
カツオは先輩たちの率直(そっちょく)な意見が聞きたいのだ。
カツオは、みずから切りだした。
「いま映像で観(み)ても、やっぱりくやしいです。特に3ラウンド目の打ち合いは、オレのほうがたくさんパンチを当てていました。なのに、倒されたのはオレのほう……パンチ力でおとってるのは、みじめだなって思いました」
先輩のふたりは、互いに顔を見合わせた。この話題をつづけていいのか無言で確認し合っているようだ。
やがて、霧山が時代劇俳優のような凜々(りり)しい顔をカツオに向け、言った。
「それが格闘技の現実だ。体力で圧倒されていたら、技をどうこう言う以前の話になってしまう。技量では相手よりまさっていても、圧倒的なパワーの前では何もかも粉砕(ふんさい)されてしまう――それが現実だ。
これは、空手の世界でもよくあることだ。何年もかけて技を習得したのに、組手(くみて)をしたら技など何もない体力だけの相手にまけてしまう。その現実を突きつけられ、空手に幻滅してやめていった者も少なくない」
「たしかに、そのとおりだな」
星乃塚は言う。
「フィジカルにおいて大人と子供ほどに差がひらいていたら、技や戦術も無効にされちまう。それは実際に起こることだ。
でもな、カツオ、それを言い訳にしてたんじゃプロとは言えねぇ。プロは結果の世界だ。勝つことがすべての世界だ。相手が誰だろうと、対戦するからにはかならず勝つ――それがプロだ。
おまえもプロを目指しているのなら、勝つことをあきらめるな。たとえ大人と子供ほどに体力で圧倒されていてもな」
「はい!」
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