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烈のステップワークの正体
カツオは一時停止を解除した。
画面のなかでスパーリングが再開される。
烈が構えを変えてから、カツオのパンチが当たらなくなる。
がら空(あ)きのボディを狙いにいったとき、あやうく接近されそうになった。
モニターが『ボディ狙いは危険だ、接近されるぞ』と叫ぶ星乃塚の声を再生する。
そこからのカツオは、狙いを相手の顔面に集中させるが、しかし烈の固いブロックにはばまれ、いずれもヒットしない。
さあ、ここからだ!
カツオは思った。
大賀烈は、もうすぐあのステップを使ってくる。
カツオは速いフットワークを使っているにもかかわらず、烈のゆっくりとしたステップに追いつかれてしまう――あのステップワークだ。
画面のなかで、そのシーンが再生された。
右へ、左へ、カツオは必死にまわり込もうとするが、まわり込めない。カツオがしだいに追い込まれていく。
「この足裁(あしさば)きは!」
霧山が驚愕(きょうがく)の声をあげた。
カツオは映像を一時停止にし、霧山に視線を向けた。
カツオはまだ烈のステップワークの謎が解(と)けていない。あのテクニックを見てプロの先輩が何を思うのか、ぜひとも知りたかったのだ。
「霧山さんは、大賀選手のステップワークの秘密がわかったんですか!?」
「ああ……でもまさか、四回戦の選手がこれを使ってくるとは、さすがに意外だった」
「教えてください! なんでオレはまわり込むことができなかったんですか? まるでこっちは一生懸命走っているのに、ゆっくり歩いている相手に追いつかれてしまうような感じでした。どうしてあんなことが起こるのか、いまだにわからないんです」
「カツオ、それは、大賀選手の足裁きが――」
霧山がそこまで言ったとき、星乃塚が横から割り込むようにして、
「ショートカット・ステップだからだ」
と言った。
「なっ!」
霧山は、悪事を目(ま)のあたりにした時代劇の主人公のような顔で星乃塚を睨(ね)めつけている。
しかし、星乃塚にはわるびれる様子がない。
得意げな顔のまま、カツオに「ショートカット・ステップ」の説明をはじめた。
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