2018年12月28日金曜日

ファイター・タイプ向きの逸材

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ファイター・タイプ向きの逸材



 エムビージムは、エムビー・フィットネスクラブの建物のなかに設置されている。
 フィットネス会員にアンケートをとったところ、
「ボクササイズに興味がある」
「ボクサーのような細マッチョになれるトレーニングがしたい」
 という要望が複数よせられたため、オーナーが施設内にボクシングジムの設置を決意したのだ。

 そして、3階にある第2エアロビクススタジオを改装し、エムビーボクシングジムが誕生した。


 オーナー自身はボクシングに関してまったくの無知であったため、ボクシングの指導ができる責任者をさがし求めた。
 彼はクラブからいちばん近くにあるボクシングジムに相談をもちかけた。

 話を聞いた拳豪(けんごう)ジムの会長は、トレーナーの片倉衛二(かたくら えいじ)を紹介した。

 片倉は、
「フィットネスだけでなく、プロの選手を育ててもかまわないのなら」
 という条件を提示した。

 オーナーは思った――
 もしプロのチャンピオンが当社からでれば、エムビーフィットネスクラブの宣伝になるな……。

 そしてオーナーは、プロボクシングのジムとして加盟することを承諾し、片倉をエムビージムの会長として迎えいれた。

 このような経緯により、オーナーにとってはボクササイズの施設として、片倉衛二にとってはプロのボクシングジムとして、エムビージムはスタートしたのだった。



 最初のおよそ2年間、フィットネスクラブ内に設置されているということもあり、プロ志望者はひとりもこなかった。

 だが、いまから1年9ヶ月前、ようやくはじめてのプロ志望者が入門した。
 それが、大賀烈だった。

 素質も性格もファイター・タイプ向きで、片倉にとっては願ってもない若者だった。
 拳豪ジムでトレーナーをやっていたときから、片倉はファイター・タイプの選手を育てる専門家だったのだ。

 プロを目指して野球をやっていただけあって運動神経にすぐれていた。
 新しいテクニックを教えると、すぐにコツをつかんでできるようになってしまう。

 そして何よりフィジカル(肉体面)の強さが規格外だった。
 ベンチプレスをやらせれば100キロ以上のバーベルを軽々とあげてしまう。最高では120キロをあげる力がある。
 軽量級でこの筋力は、まさに『怪力』だった。


 しかも高校はすでに中退しており、ボクシングに人生のすべてをかける覚悟を決めている。

「これほどの逸材(いつざい)は10年にひとり、いや、50年にひとりあらわれるかどうかだ。
 この男なら、本当に世界を狙えるぞ!」

 片倉は、この若者と出会えた天運に心から感謝した。

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