2018年12月26日水曜日

体が小さいからこそ、世界一も夢じゃない(1)

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第三章




体が小さいからこそ、世界一も夢じゃない



 大賀烈(おおが れつ)――
 プロボクサー。
 18歳。


 身長156センチ、階級はミニマム級。

 子供のころの夢は、プロ野球選手になり、メジャーリーグで活躍することだった。



 烈の少年時代は、ケンカがめっぽう強く、子供たちのあいだで独裁者的な存在だった。むかしふうの言葉で言えば『ガキ大将』というやつだ。

 運動神経は抜群(ばつぐん)で、野球が好きだった。
 筋力に恵まれており、小学生のころはエースで4番だった。


 中学のときは、硬式野球部に所属した。
 強肩強打をほこり、1年のときからレギュラーの座を獲得――県内の強豪チームの一員として活躍した。

 だが、2年、3年と進級するにつれて、思うような活躍ができなくなってきた。
 身長があまり伸びず、体格で周囲の者たちにおとるようになったのだ。

 それでも持ち前の運動神経となみはずれた筋力を武器にレギュラーの座を守りつづけた。
 3年のときは、長打も打てる攻撃的な2番バッターとしてチームに貢献した。

 体こそ小さいが、自分の才能と実力には絶対的な自信をもっていた。

「将来、メジャーリーガーになることを目指しているおれにとって、甲子園はたんなる通過点にすぎない」
 そう豪語(ごうご)していた。

 烈は、野球の名門として名をはせている高校にスポーツ推薦で受験した。
 受かってとうぜんだと思っていた。
 才能、能力、志(こころざし)の大きさ――どれをとっても、すでに超高校級だという自負(じふ)があった。

 だが、結果は不合格だった。

 理由は、身長が低すぎることだった。

「どんなに大目(おおめ)に見ても、最低で160センチは必要だよ」
 そう言われ、実力を見てもらう機会も与えられずに突き放された。

 烈は、屈辱的な挫折を味わった。


 失意のまま、烈は地元の県立高校に進学した。
 野球部に入部――そこの野球部は、はっきり言って弱小チームだった。このレベルのチームのなかで烈の実力が抜きんでているのは明らかだった。
 だが、体が小さすぎることを理由に補欠にもなれず、球拾(たまひろ)いや雑務ばかりをさせられた。

 烈は、野球という競技に幻滅した。

 烈は野球部を退部――
 その1ヶ月後、学校も退学した。

 8ヶ月たらずの高校生活だった。

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