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第三章
体が小さいからこそ、世界一も夢じゃない
大賀烈(おおが れつ)――
プロボクサー。
18歳。
身長156センチ、階級はミニマム級。
子供のころの夢は、プロ野球選手になり、メジャーリーグで活躍することだった。
烈の少年時代は、ケンカがめっぽう強く、子供たちのあいだで独裁者的な存在だった。むかしふうの言葉で言えば『ガキ大将』というやつだ。
運動神経は抜群(ばつぐん)で、野球が好きだった。
筋力に恵まれており、小学生のころはエースで4番だった。
中学のときは、硬式野球部に所属した。
強肩強打をほこり、1年のときからレギュラーの座を獲得――県内の強豪チームの一員として活躍した。
だが、2年、3年と進級するにつれて、思うような活躍ができなくなってきた。
身長があまり伸びず、体格で周囲の者たちにおとるようになったのだ。
それでも持ち前の運動神経となみはずれた筋力を武器にレギュラーの座を守りつづけた。
3年のときは、長打も打てる攻撃的な2番バッターとしてチームに貢献した。
体こそ小さいが、自分の才能と実力には絶対的な自信をもっていた。
「将来、メジャーリーガーになることを目指しているおれにとって、甲子園はたんなる通過点にすぎない」
そう豪語(ごうご)していた。
烈は、野球の名門として名をはせている高校にスポーツ推薦で受験した。
受かってとうぜんだと思っていた。
才能、能力、志(こころざし)の大きさ――どれをとっても、すでに超高校級だという自負(じふ)があった。
だが、結果は不合格だった。
理由は、身長が低すぎることだった。
「どんなに大目(おおめ)に見ても、最低で160センチは必要だよ」
そう言われ、実力を見てもらう機会も与えられずに突き放された。
烈は、屈辱的な挫折を味わった。
失意のまま、烈は地元の県立高校に進学した。
野球部に入部――そこの野球部は、はっきり言って弱小チームだった。このレベルのチームのなかで烈の実力が抜きんでているのは明らかだった。
だが、体が小さすぎることを理由に補欠にもなれず、球拾(たまひろ)いや雑務ばかりをさせられた。
烈は、野球という競技に幻滅した。
烈は野球部を退部――
その1ヶ月後、学校も退学した。
8ヶ月たらずの高校生活だった。
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