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殴り合いのスキルがあっても身につかない強さ
カツオ、誠一、賢策の3人は、おなじ高校にかよっている。
須藤賢策は、学校のなかで特異な存在だった。
頭脳明晰で成績優秀、運動神経抜群でサッカーが得意、そのうえアイドル顔のイケメンときているのだから女子にモテないわけがない。
しかし、その完璧すぎるキャラクターと、ナルシスト(自信家)な性格のせいで、男子のあいだでは孤立しがちだった。
1年のとき、賢策とおなじクラスに誠一がいた。
誠一は孤立している者を見るとほうってはおけない性分(しょうぶん)だった。そして誠一のほうから賢策に声をかけた。
それをきっかけにふたりは友だちになった。
カツオは、誠一を介(かい)して賢策と知り合った。
2年のときは、3人ともおなじクラスになり、一緒にいる時間が多くなった。
カツオがボクシングをはじめる勇気をもてたのも、誠一と賢策のおかげだった。
去年の11月、ある出来事をきっかけに、3人で「本当の幸せってなんだ?」ということについて話し合った。
そして、
「幸せは未来にはない。幸せになりたければ『いま』でなければダメなんだ」
という結論にたどり着いた。
3人はさっそく『いま』を幸せにするために、『上機嫌』を実践(じっせん)した。
はじめはかるい気持ちだったが、この試(こころ)みは、3人に大きな変化をもたらした。
心に喜びの感情が呼び起こされ、前向きに、そして自分に正直に生きられるようになったのだ。
その心の変化が、カツオにボクシングをはじめる勇気をもたらした。
カツオ、誠一、賢策――
この3人だったからこそ、『いま幸せ』に目覚めることができた。
3年生になったいま、クラスは別々になってしまった。
しかし、3人の絆(きずな)になんら変わりはなかった。
カツオは、誠一と賢策を部屋に招きいれた。
母が運んできたジュースとお菓子をかこむようにして、3人で語り合う。
ほとんど誠一と賢策がしゃべっていた。
笑ったり、はしゃいだりなんてしない。ふたりとも真剣な面持(おもも)ちで話している。
本当に、カツオと一緒に落ち込むつもりのようだ。
誠一と賢策は、自分が落ち込んだときのことを話している。
そのときのつらい感情がよみがえってくるのを覚悟のうえで、話している。
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