2018年10月19日金曜日

このスパーは、おそらくアレだ(3)

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 カツオは青コーナーに立ち、ラウンド開始のブザーを待ちながら、滝本トレーナーがさっきから何も言わないことを不思議(ふしぎ)に思っていた。
 いつもなら、作戦や闘い方を事細かく指示してくるのに……。

 インターバルはまもなく終了する。

「カツオ――」
 滝本トレーナーがようやく言葉を口にした。
 声も、表情も、いつになく険(けわ)しい。
「俺は何も言わねぇ。このスパー、おまえの思うように闘ってみろ」

「…………」

「いつもどおりでいい。おまえのボクシングを精一杯やるんだ。わかったな」

「はい」

 カツオは返事をしながらも、やはり不思議に思っていた。
 セコンドが指示をださないってどういうことだろう? オレのことを信頼してくれてるってことなのか?
 ……まあ、どっちにしたって、オレはオレのボクシングをやるだけだ。
 オレにはスピードがある。オレのスピードをもってすれば、誰が相手だろうと絶対に勝てる!

 カツオはそう自分に言い聞かせ、意識を闘いに集中させた。
 内側から闘志がみなぎってくるのを感じる。

 そして――

 ラウンド開始のブザーが鳴った。

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