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5 罪や過ちを消し去る
罪とは何か?
それは、記憶のなかにある過去の出来事なんだ。
人は、過去に縛られるべきじゃない。
過去は過ぎ去り、いまはもうどこにもない。そんなものにとらわれてちゃいけないんだ。
もちろん、犯した罪や過ちがなんでもかんでも許されるって意味じゃない。
反省して改めることは絶対に必要だし、もし償(つぐな)いをする機会が与えられているのなら誠心誠意の償いをするべきだと思う。
でも、改心して、ちがう人間になったのなら、過去のことはもう責(せ)めてはいけないんだ。
それが他人であれ自分自身であれ、改心して生まれ変わった人を責めてはいけない。
罪を負うべき人間は、いまはもう存在していないのだから。
この世に完璧な人間はいない。誰だってまちがいを犯すことはある。
でも、そのたびにしっかりと反省して、改めて、正しいことができるように変わったのなら、それでいいんだよ。
それもまた、人としての成長なんだ。
他人であれ、自分であれ、人を評価するときに、過去や肩書きにまどわされてはいけないんだと思う。
すべては『いま』なんだ。
先入観のない目で、
「その人が『いま』どんな人なのか?」
それを見極めなくちゃいけないんだ。
それが、「人を評価する」ということなんだよ。
そして、罪や過ちを消し去る方法は、別人になることなんだ。
改心して、おこないを変えて、まったくちがう人間になることなんだ。
「以前の私は、もうこの世には存在していない」
そう言い切れるくらいに、心の底から変わることができたのなら、罪や過ちは消えてなくなってるんだ。
それが、真実なんだよ。
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春の朝日に照らされて、桜がとてもきれいに映(は)えていた。
「4月っていいよね」
オレは桜並木を見渡しながら言った。
「長い冬が終わって、新しい季節がやってきたって感じがするよ」
「そうですね」
俊矢は伸脚(しんきゃく)をしながら応えた。
「なんだか、心まで新しくなったような気持ちになりますよね」
今朝、俊矢と一緒にロードワークをするため、オレはこの場所にきていた。
「いいロードワークのコースを見つけたんです。桜の花が満開で、景色が最高なんです。一緒に走りませんか?」
昨日、俊矢のほうからそう誘ってきた。
もちろん、オレはふたつ返事でオーケーした。
あれから俊矢は、毎日ジムにきていた。
ハードな練習ぶりは、あいかわらずだった。
ただ、自分を懲(こ)らしめているかのような悲壮感(ひそうかん)はなくなっていた。
純粋にボクシングに打ち込んでいるって感じで、その姿はとてもさわやかだった。
会長も教え子がもどってきて、熱血指導者の顔を復活させていた。
ジムは活気をとりもどし、何もかもが以前よりも良くなったように思える。
「本当に、良かったよ……」
オレが喜びにひたっていると、
「ウォームアップにいつまで時間をかけてるんですか。先に行きますよ」
俊矢は、オレを置いて走りだした。
「おい、待てよ! フライングなんてずるいぞ!」
オレは、俊矢のあとを追って駆けだした。
桜の花びらで彩られた春の風が、とても心地よかった。
<完>