※今回はボクシングに関するエッセイです
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「人と話すときに、相手のどこを見ればいいのかわからない」
そんな悩みをかかえている人は、少なくないと思います。
このような悩みが生じる原因は、
「人と話すときには、相手の目を見なければいけない」
という観念が一般化していることにあります。
人と話すときには、ちゃんと相手の目を見なければいけない――
でも、私はどうしても相手の目を直視することができない――
でも、私はどうしても相手の目を直視することができない――
そのようなジレンマ(心理的な板ばさみ)におちいると、人に相談することもできずにひとりで思い悩み、コミュニケーションに対する不安や苦手意識を募(つの)らせてしまいます。
このような問題は、早々に解決すべきだと思います。
人間関係を、楽しく、喜びに満ちたものにするために――
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僕は若い頃、プロボクサーだったことがあります。
※詳しくはこちらをご参照ください。
→ボクサーは現代の戦士だ (本条克明のボクシング観)
そのときの体験から、
「相手の目をまっすぐ見られない」
「相手のどこを見ればいいのかわからない」
という問題に対して、僕なりの対処法というか『答え』のようなものを持っています。
よろしければ参考になさってみてください。
ボクサー式「睨み合いの智恵」
僕が現役のボクサーだった頃――
僕を担当していたトレーナーは、情熱的で、ボクシングに精通していて、正真正銘の名伯楽(めいはくらく)でした。
※ボクシングの世界では、優れた指導力を持つトレーナーを「名伯楽」と称しています。ただ、ときどき考え方が古いところもあったりします。
たとえば、プロボクシングの試合では、第1ラウンドを開始する前に、両選手がリングの中央に集まって、レフェリーの注意を受けます。
試合開始の直前に一度、対戦相手の眼前に接近するんですね。
むかしのプロボクシングの世界では、このときに両選手が激しく睨(にら)み合うのが慣習になっていました。
ですが、いまではもう睨み合いをすることはほとんどありません。
ところが、僕のトレーナーはむかしのままの考え方をしている人だったので、僕が試合をやる数日前に、こう言ってきました。
「レフェリーの注意を受けるときにリングの中央に行ったら、相手をおもいっきり睨みつけろ!
おれがさりげなく後頭部を押してやるから、前傾姿勢になって、殺気だった上目(うわめ)づかいで相手を睨み倒せ!」
……正直、「やだな」と僕は思いました(苦笑
どうせこれから拳(こぶし)をまじえて実力で勝敗を決めるのに、威嚇(いかく)なんかしたって意味ないじゃん。
というより、エネルギーの無駄づかいだよな――
僕自身は、そう考えていました。
賢いボクサーの睨み方
とはいえ、トレーナーは恩師ですので、指示されたことには従わなければなりません。
こまった僕は、先輩のMさんに相談することにしました。
「Mさん……レフリーの注意を受けるときの睨み合いって、どうやってやればいいんですか? 俺、睨むのとか得意じゃないし、うまくやる自信がないんですよね」
「じゃあ、睨まなければいいんじゃない。オレだっていつも睨んでないし」
「えっ!? Mさん、レフリーの注意を受けているとき、相手のことをメチャクチャ睨んでるじゃないですか」
「まあ、『相手のことを凝視している』って意味では、たしかに睨んでるけどね。
でもオレ、相手の目を見てないから、そういう意味では睨んでないんだ」
「目を見てないんですか!?」
「見てないよ。だって目が合ったりしたらこわいじゃん」
「……じゃあ、いったいどこを見てるんですか?」
「鼻だよ。鼻すじの真ん中あたり。
そこをじっと凝視すると、相手は『目を見ている』と勘ちがいするんだ。
そして、相手のほうは『目を睨まれている』と思い込んで、ものすごい形相(ぎょうそう)になって睨み返してくるんだけど、オレはぜんぜん気にしない。
だって、目を見てないからね。
そして相手は、『こっちがこんなにも睨んでいるのに、まったく動じない』と思い込んで、勝手にビビってくれるんだ」
ボクサーの睨み方(目付)は、日常生活や人間関係に応用できる
Mさんのこのアドバイスは、僕が試合をやるときにとても役立ちました。
そして、この方法は、日常生活の人間関係においても、そっくりそのまま応用できます。
相手の目を見るのが苦手――
だったら、相手の目を見る必要なんてありません。
見る場所は、相手の鼻――鼻すじの真ん中あたり。
そこを見ていれば、相手のほうは「ちゃんと私の目を見ている」と受け取ってくれます。
この目付(めつけ)をすれば、「目を見ないで無礼だ」と言われることはありません。
また、「目を合わせられないなんて臆病なやつだ」と思われることもありません。
この目付には、相手の目を見ているのとおなじ効果があるのですから。
心理学には「サイクロプス・テクニック」という方法がある
じつは、これとよく似た方法が、心理学にもあります。
心理学者の内藤誼人(ないとう よしひと)氏によれば、
「サイクロプス・テクニック」
というものがあるそうです。
サイクロプス(Cyclops)とは、ギリシャ神話に登場するひとつ目の巨人のことです。
RPG(ロール・プレイング・ゲーム)にもたびたび登場するので、すでにご存じの方も多いかもしれませんね。
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サイクロプスというのは、一つ目の怪物のことなんですが、要するに相手の両目の間くらいに、もうひとつ目があると想像し、その目だけに、視線を合わせようとすればいいんです。
――<中略>――
相手の目と目の間を見つめようとするなら、それほど緊張しなくともいいでしょう。直接的には、目を合わせていないんですから。
しかし、不思議なことに、あなたが相手の目と目の間を眺めているつもりでも、相手はそう思いません。
しっかり、自分の目を見つめながら話してくれているのだと錯覚するのです。
出典『インパクト・アッピール 相手を圧倒する、つかみの自己PR術』 内藤誼人:著 主婦の友社(2004年)
※ネット上で読みやすいように改行を加えて体裁(文章の見た目)を整えてあります。
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あなたに向いてる目付を採用することで、コミュニケーションがより快適になる
サイクロプス・テクニックは、
「相手の眉間(みけん)を見る」
という方法です。
僕がボクシングをやっていたときの方法と、効果はまったくおなじです。
- 鼻すじの真ん中あたりを見る方法
- 眉間を見る方法
それぞれ少しずつ試してみましょう。
そして、あなたにとってやりやすいほう(向いている方法)を見極め、そちらを採用するようにしましょう。
この目付がうまくできるようになれば、人と話すときの不安や緊張が軽減されます。
そして、コミュニケーションがより快適に、より楽しいものになります。
※このエッセイは、本条克明が以前に運営していた『本条克明ライターズブログ』というサイトに掲載した記事を改訂したものです。
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