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オレたちは時間が経つのも忘れて、ボクシングの動画を鑑賞した。
そのあいだ、オレたちが交わした会話はボクシングに関することばかりだったけど、その合間(あいま)に、少しだけほかのことも話した。
「オレの学校は、明日から学年末テストなんだ。といっても勉強はあまりしてないけどね、ジムワークだって休むつもりはないし。……俊矢の学校は、いつからテストなの?」
オレがそう尋ねると、
「……学校へは、行ってないです」
俊矢はきまりわるそうに言い、うつむいてしまった。
何か事情があるみたいだな。どうやらよけいなことを訊(き)いてしまったらしい。これ以上は触れないほうがいいみたいだ。
オレは話題を変えて、誠一くんのことを話した。
幼なじみの誠一くん――
臆病で弱虫だったオレをいつも守ってくれた誠一くん――
幼稚園から高校生になった現在まで、ずっと一緒の誠一くん――
やさしい兄のような存在の誠一くん――
誠一くんのことを話していると、自然と顔がほころび、声の調子も明るくなる。
俊矢はすごく真剣な顔で、オレの話を聞いてくれた。
そして、話を聞き終えると、
「……すごく、いい人ですね」
とつぶやき、それっきり黙り込んでしまった。
うーん……どうやらオレたちは、ボクシング以外の話では盛りあがれないみたいだ。
ま、オレたちはボクサーなんだし、それはそれでいいことなのかもしれないよね。
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